土曜日, 3月 29, 2025
ホームつくば【シルバー団地の挑戦】13 住民の願い届かず つくバス改編

【シルバー団地の挑戦】13 住民の願い届かず つくバス改編

【橋立多美】「つくバスの団地内乗り入れがみんなの一番の関心事。高齢者が荷物を下げて、団地入り口の停留所から家まで歩くのは辛い」―。つくば市のコミュニティバス「つくバス」の4月改編に伴い、2月25日、茎崎地区の森の里自治会公会堂で行われた市民説明会での住民の発言だ。

改編の説明を聞きに120人の住民が公会堂に集まった=同

「団地入り口の停留所まで遠くて利用する人はわずか。団地内に乗り入れるのに2、3分しかかからない。利用者が増えれば運賃収入が増えて市の経費は抑えられる」などの発言が相次ぎ、発言のたび、集まった約120人の住民から拍手がわき起こった。

森の里自治会は、団地入り口にしか停留所がないつくバスを、団地内に乗り入れてほしいと市に申し入れてきたが思いは届かなかった。

赤線内が森の里団地。つくバスの停留所は赤線の下の部分

森の里住民が利用できるつくバスの路線は、同地区の茎崎老人福祉センターから牛久学園通りを走行してつくばセンターに至る「南部シャトル」。ルート上に「森の里団地入口」のバス停(図参照)がある。同団地は市内で最大規模の住宅団地で面積は25ヘクタールに及ぶ。中心部からバス停まで約400メートル。成人男性でも歩いて5分ほどかかる距離だ。場所によっては1キロほど離れている住宅もある。高齢者には過大な労力がかかり、買い物や通院に不便を強いている。

同団地内には5カ所の停留所があり、牛久駅に至る民間の路線バスが運行されている。しかしつくばセンター方面へ向かうつくバスのバス停は団地内にない。自治会は、つくバス改編に向けた地区別懇談会や説明会などで団地内への乗り入れを要望してきた。

この日、改編について説明した市総合交通政策課の職員は「乗り入れはわずか数分と言われるが他にも『団地入口』の停留所があり、同じように求められたら便数を確保できない」と答えた。

「諦めるが、運賃補てんはありがたい」

茎崎地区の公共交通改編の柱は三つある。一つ目のつくバス「南部シャトル」は、ルート変更はないが、牛久市域の「田宮町」やララガーデン(小野崎)近くの「小池」など7カ所にバス停が増設される。さらに混雑時間帯を考慮してダイヤが見直され、現行では概ね30分毎の64便運行が30~40分に1本になって56便に減る。

高齢化が進む茎崎地区はもともと牛久に生活圏を持つ人が多い。主に日中時間帯に高齢者の牛久駅方面への交通需要に対応するため、既存の4つの路線バスの運賃を、料金が安いつくバスと同等にし減収分を市が補てんする「路線バス運賃補填実証実験事業」と、牛久方面へのバス路線のない地域に31人乗り小型バスを運行する「新規路線バス実証事業」の二つが新たに始まる。

いずれの事業も4月1日から3年間実施されることから、説明に時間が割かれた。「運賃補てん」は市の補てん額を正確に把握するためICカード乗車券を利用することが条件で、カードの入手やチャージ方法の説明に熱心に耳を傾ける人が多く見られた。

森の里自治会の倉本茂樹会長は「つくバス乗り入れは諦めるしかないが、路線バス運賃補てんは高齢者に限らず誰もが利用できる制度でありがたい。団地乗り入れへの関心が高く123人が説明会に来てくれたが自治会会員の1割に過ぎない。再編に関わる情報は今月号の自治会広報で周知したい」と話した。

茎崎地区の補てん事業の当初1年間の予算は772万8000円。新規路線バス事業も含めると新年度3389万4000円を計上する。

➡つくバス改編の関連記事は2018年5月11日付同16日付19年1月18日付

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日本国際学園大4年の犬嶋美雨さん 拡張体験デザイン協会賞を受賞

仮想空間と現実空間の触覚の認知を研究 日本国際学園大学(つくば市吾妻)経営情報学部メディアデザインコース4年の犬嶋美雨さん(22)がこのほど「拡張体験デザイン協会」(会長・持丸正明 産業技術総合研究所人間拡張研究センター長)による2025年のグッド体験デザイン学生賞(Good Experience Design Student Award)を受賞した。犬嶋さんの卒業研究だったバーチャル空間での体の感覚の研究で、これまできちんとデータをとった実験が無かったことから、高く評価された。 メタバースなど仮想空間の中に入り込んだ感覚になる、ゴーグルのようなヘッドマウントディスプレイという装置を頭に装着して実験した。仮想空間の中と現実空間とで同時に、手で触った対象物表面のでこぼこの感触が異なる場合、脳が自分の体をどう認識するかを研究した。何度も繰り返して、異なる触覚の対象物を手で触ると脳は、目で見える仮想空間の中にある手が触った触覚を、現実の自分の手の触覚と一致させようとして、仮想空間の方の映像でつくられた手を、自分が実際に感じた触覚だと認識してしまうようになることを具体的なデータで示した。 27日、同協会運営委員長の大山潤爾 産総研主任研究員が同大を訪れ、犬嶋さんに賞と盾を手渡した。2025年の学生賞の受賞者は全国で2人。同賞は2023年から授与しており犬嶋さんは7人目。 犬嶋さんは「まさか受賞できるとは思ってなかったので、ひじょうに光栄」と語る。卒業後は介護職として働く予定で「卒業研究で体の認知に関することを調べたので、就職後も高齢者の体に関する認知についての知見を深めるのに役立てていければ」と話していた。 東京大学名誉教授で同大の横澤一彦教授の指導を受けながら実験を重ね、日本心理学会注意と認知研究会でも発表した。 横澤教授は「日本国際学園大学に移ってから(犬嶋さんの学年が)初の卒業生になった。仮想空間の中の人間はどのような行動をするのか調べたいと思っていた。学会で発表し多くの質問が出て、新しい挑戦ができたと思う」と話した。 同協会の大山運営委員長は「バーチャル空間というと一般的に視覚と聴覚だが、これからは触覚や匂いなども加えた研究が進んでいく。視覚と触覚が同時にある体験について、ちゃんとデータをとって本当に効果があるかを調べることが大事。そういう研究を奨励したいということで選ばれた」などと述べ、「触覚がある方が体験がリアルになるといわれているが、どれくらいの精度でどれくらいの触覚を再現すれば、よりリアルで楽しい仮想空間になるかが分かるようになるのではないか」と話している。(鈴木宏子)