【コラム・斉藤裕之】かみさんと娘はどこやらに出掛けて行き、私は別行動というのが、しばらくの間の週末の風景でした。しかし娘が2人とも家を出てからは、こりゃしょうがない。好むと好まざるとにかかわらず、かみさんは私とお出かけするしかないのでした。
しかしながら、この辺りの目ぼしいところは大方行ったことがあるし、2人とも買い物には興味がないときては、お出掛けする所を決めるのも一苦労。でも、かみさんの仕事柄、近隣市町村の文化財や史跡に興味がある様子。誘われたら、決して「つまらん」と言わないこと。
ところで、親父と母は晩年、休みの度に島根県の津和野詣でをしておりました。家があった瀬戸内海側の町から車で小1時間。日本海に近い西の小京都。森鴎外や鯉の泳ぐ水路で有名ですが、2人の目的は参道の千本鳥居が美しい太鼓谷稲荷神社。
休日ごとに詣で、なぜか野球の玉くらいの鈴を買ってくる。何かご利益があったのか、何かに取りつかれたのか。家の神棚には、まさに鈴なりに鈴が架かっておりました。
当然、車で移動するわけですが、親父は免許を持っていません。つまり母ちゃんが運転。実はその運転がすごい。山道のつづら折りを猛スピードで走る。ブレーキのタイミングなんか無視。当然、当時はマニュアル車。
不思議なのは、免許を持っていない親父が「セカンド入れろ」とか「もっとフカしてギアチェンジじゃ」とか指示すること。1日200㎞ぐらいは平気で走ってくる。日によっては「岡山行ってきた」なんて。推定500㎞以上は走っているはず。よく事故もなかったと、いまさらながらその無謀ぶりにあきれます。
その後、弟とこの話題になり、「あいつらパリダカールラリーに出たら優勝するんじゃないか」って。スポンサーのロゴがいっぱい入ったつなぎとヘルメット姿の2人を想像して爆笑した記憶があります。
さて、先日はかみさんご推薦のとある旧家を訪ねました。新緑が心地よく、ロケ地にも頻繁に使われるという趣のある敷地内を散策。驚いたのは、その近くにあったローズガーデン。一見、ごく普通のお宅にしか見えません。「入るの?入場料500円とはたけーんじゃねえか」。
しかし、入ってたまげました。駆け上がりの様になっているバラ園には、小さな小径があって、足元からこずえまで、驚くべき数の花々が咲いているではありませんか。その迫力に思わず笑ってしまいました。人間、想像を超えるものに出合うと、笑うんですよ。
聞けば、ご婦人が全て植えて管理されているとか。入場料高いなんて言ってすいません。どうぞ、どうぞ、肥料代にしてください。
そうそう、親父と母は地図も見ずに、いわゆる「感」で走り回っていました。「感ナビ」とでも言いましょうか。予想外の風景や面白いお店を見つけるのは、やはり臭覚にも似た「感」を身に付けることですかね。スマホ任せでは面白くありません。(画家)