我が家の愛猫

【コラム・橋立多美】愛媛県今治市の松山刑務所から逃走した受刑者が広島市で逮捕された事件で、同受刑者が一時潜伏していた広島県尾道市向島には1000軒以上の空き家が点在すると報じられたのは記憶に新しい。

核家族化と高齢者の独居世帯の増加により、一戸建て住宅を中心として空き家は毎年20万戸ずつ増えると予想されている。建物の取り壊しに数十万円以上の費用がかかる上、更地にすると固定資産税の軽減措置を受けることができなくなるのが空き家を増加させている要因だ。

放置された家は、老朽化による倒壊や放火による火災などを引き起こす恐れがあると、全国の自治体で空き家バンクの取り組みが始まっている。つくば市は2016年2月に空き家バンク制度が施行され、同年に全市域の実態調査が行われた。同市の空き家率は3.2%で空き家数は1439件だった。

同市の空き家バンクに登録された物件を公開するインターネットのページを見ると、5月31日現在、登録番号は14番までで成立した物件は5件。空き家数を考えると焼け石に水の状態だ。

草刈りと餌やり

空き家の分布は高齢化が進む茎崎と筑波地区が突出して多い。

筆者はこれまで「交通の便が悪くても筑波山を間近で見られる麓で暮らしたい」という話を少なからず聞いた。実際に山麓の空き家を借りている人は「何度も通い、大家さんから地域の決め事について聞かされた」という。

離農の傾向はあるが、主たる産業が農業の筑波地区は地域の結びつきが強く、高齢になって生活に便利な市中心部に引越しても地域の組合から脱会せずに草刈りや葬儀にやって来るそうだ。大家にとって移住者が地域に溶け込むかどうかは見過ごせない課題なのだろう。

一方、「地縁」は強くない茎崎地区の住宅団地で持ち上がっているのが、高齢者が空き家で野良猫に餌をやっていることだ。猫が集まることで庭が糞尿で荒らされ近所迷惑になると自治会が申し入れても、受け入れられない。餌やりの理由は「寂しいから」だという。

高齢期の寂しさを埋めるために餌を与えて猫とのふれあいを楽しんでいる。今後、こうした例は増えていくのかも知れない。(ライター)

【はしだて・たみ】1949年、長野県天龍村生まれ。84~96年、常陽リビング社勤務。退社後フリーライターとして活動しつつ、『茨城のホームヘルパー最前線』『ルポ消防団』など4冊を出版。2013年から常陽新聞記者。17年の休刊後はNPO法人NEWSつくばのデスク兼ライター。つくば市在住。69歳。