筑波大学附属病院(つくば市天久保、平松祐司病院長)は24日、膵腎(すいじん)同時移植を同大で41年ぶりに実施したと発表した。頭部に外傷を負い脳死と判定された島根県の20代男性から提供された膵臓(すいぞう)と腎臓を、20日から21日未明に茨城県内の30代男性患者に移植した。現在、患者の症状は安定しているという。
同大は1984年9月、当時の岩崎洋治初代消化器外科教授(故人)らが国内初の脳死による膵腎同時移植を実施した。しかし当時、脳死判定の基準や臓器提供の法整備が未整備だったなどから社会的議論となり、市民グループらが筑波大を殺人罪などで告発し、98年に不起訴処分になった。
1997年に臓器移植法が制定され、日本臓器移植ネットワークが整備される一方、現在、国内では移植医が不足し、関東では移植医療を行う医療機関が減っているという。同附属病院は2019年から膵腎同時移植の再開に向けた準備を進め、6年の準備期間を経て実施に至った。

膵腎同時移植は、自己免疫の異常などによって自分の膵臓からインシュリンがほとんど出ない1型糖尿病で、末期の腎不全により人工透析を受けている患者を対象に行われる。同時移植により、移植した膵臓からインシュリンが出るようになるほか、人工透析を受けなくて済むようになる。現在、全国で年間約150件の同時移植が行われ、治療法として定着している。
24日記者会見した同附属病院副病院長で消化器・移植外科の小田竜也教授によると、19日、筑波大の外科医など3人が島根大学に向かい、20日午前8時にドナーから膵臓と腎臓を摘出、同日午後3時過ぎに筑波大に戻り、9時間12分の移植手術を実施した。14人の外科医によるチームを編成し、麻酔医や看護師を含め20人以上が対応にあたった。同時移植を受けた男性はこれまで3年間、同附属病院に週3回通い、透析を受けていたという。
小田教授は「アカデミアの使命としてやらなくてはいけないと2019年から準備を始めたが、膵腎同時移植をやるには人的資源とチームワークと組織の体力が必要で、ハードルの高さは予想以上だった」と話し「脳死が法律で整備されていなかった41年前と比べて、あまりにも時代が変わってしまって、働き方改革など医療者の価値観も変わった。移植外科医がひじょうに少ない中、夜も土日も手術に当たらなくてはならないなど長時間の連続業務が必要となる移植医療はこのままでは維持が難しい。診療報酬も決定的に安すぎる。一握りの医療者のボランティア精神に甘えるのではなく、日本全体として、制度として成熟していかないと続いていかない」などと話した。(鈴木宏子)