【コラム・森本信生】朝倉書店から「図説日本の里山ー73の里山のくらしと生物多様性」が6月に刊行されました。宍塚の里山も、茨城県では唯一の里山として取り上げられています。宍塚エリアが日本を代表する里山の一つとして取り上げられたことをうれしく思っています。

里山とは「人間が多様な生態系サービスを得るために自然(主に陸域)に人為を加えたもの」であり、「人の手が加えられることによって生物生産性と生物多様性が高くなった二次的自然」と定義されています。
里山は生活の糧でした。田畑での食料の生産はもちろん、樹木は薪(まき)や炭などの燃料として、あるいは建築資材として使われてきました。そして、山菜やキノコは自然の恵みとして貴重でした。畜産がそれほど発達しなかった日本では、雑木林で供給される肥料は重要でした。
自給自足社会において里山は生活の糧だったのです。生活の糧を得るために農業を淡々と営むことによって生物多様性が維持され、美しい景観が守られてきました。別の角度でとらえれば、地域文化の基盤となり、神の依代(よりしろ)ともなり、人々の心の糧ともなってきました。
「図説日本の里山」では、現代に残されている価値ある全国73の里山の「概要と景観」「生業と利用」「特徴づける生物相」「現在の利用状況と管理」が、豊富な写真をとともに紹介されています。生物だけでなく、人々の暮らし、現在の利用状況、保全活動が、偏りなく紹介されています。
もう一つの特徴は、日本全国の里山を網羅していることです。これまで里山といえば、関東や近畿地方にある雑木林に関心が向けられる傾向があったのですが、この本では北海道から沖縄・西表島まで、全国の里山が紹介されています。
それぞれの地域において特徴と魅力を兼ね備え、固有の歴史や文化、そして思いが込められたかけがえのない場であることを、改めてうかがい知ることができます。さらに、巻頭の総説(18ページ)は、里山を知るための出色の解説になっています。
私たちの生活を取り巻く最も身近な存在は里山です。その価値を知り、未来を語ることは、とても重要だと思います。その手助けとして、この本は、いまなら書店の店頭にあるでしょうし、つくば市や土浦市の図書館にも所蔵されています。手に取ってみてはいかがでしょうか。
そして、宍塚の里山においでください。毎月第1日曜日(原則)には、専門家によるテーマ別観察会を行っています。お子さん向けには子ども探偵団(毎週第4土曜日)、季節の移ろいを実感できる土曜観察会(毎週土曜日午前)も実施しています。
環境省のモニタリング1000の調査は毎月ありますし、保全活動で汗を流したければ、さわやか隊の活動など、メニューはいろいろです。もちろん、お一人での散策もお勧めします。身近な、そして豊かな里山が、あなたをお待ちしています。(宍塚の自然と歴史の会 理事)