【コラム・平野国美】筑波研究学園都市ができてから50年以上が経ちました。私もこの街の住人。当時は「村民」でしたが、40年以上が経過しました。TX開通後は、都心のベッドタウンになるという変化も起きています。初期から住まう研究者は高齢者となり、診察の場面でお会いすることが増えております。
研究職だった皆さんのお話を本人や家族から聞けるのは、研究学園都市で仕事をしているからだと、感謝しております。この街、「石を投げれば学者に当たる」時代もありました。彼らの子供時代の話、現役時代の話を聞き、いま老後を観察できるのは医者冥利(みょうり)です。
子供のころ、私は偉人伝や伝記をよく読みました。思い返すと、彼らは決して模範生ではありませんでした。問題児と呼ばれた天才たち―型破りな科学者たちの幼少期が書かれていました。
アインシュタイン、ダーウィン…
相対性理論で有名なアルベルト・アインシュタイン。彼は幼少期、言語能力の発達が遅く、学校の授業にもなじめなかったそうです。教師から「将来何者にもなれないだろう」と評価されたそうです。しかし、彼は既存の学説にとらわれず、独自の視点で宇宙の法則を解き明かしました。
進化論を提唱したチャールズ・ダーウィンも、学校の勉強よりも自然観察や昆虫採集に夢中になる子どもでした。父親からは「怠け者」と見なされ、医師になることを期待されましたが、彼の興味は自然科学に向けられていました。
発明王トーマス・エジソンに至っては、小学校を3カ月で退学になっています。学校の授業になじめず、先生からは「理解力がない」と評価されました。しかし、母親の教育を受け、独学で科学の知識を身につけ、数々の発明を成し遂げましたカ
量子力学の祖と呼ばれるニールス・ボーアは、ノーベル物理学賞を受賞した物理学者です。幼いころの彼はのろまで、身の回りのものを分解する癖がありました。
学園都市の研究者…
彼らに共通するのは、既存の枠にとらわれない発想と常識を疑う探究心です。周りからは理解されにくい彼らの行動も、未知の世界を解き明かすためのプロセスであったのかもしれません。
私が接する元研究者たちも独特な個性を持っています。そこは「多様性の海」のようです。戦後の高度経済成長期、彼らは自由で、多様性が生かされた時代でした。とても幸せだったと思います。今はと言うと…、残念な時代になってしまいました。(訪問診療医師)