個体数の減少から、絶滅が危惧されるカヤネズミの巣が、つくば市の市街地から程近い場所で確認された。かつて人の暮らしのすぐ隣にいたはずの動物が、気がつくとめったに目にすることができなくなるほど数を減らしている現状で、人と野生動物が共存するためには何が必要なのか。
セイタカアワダチソウの茎に
この奥です−。
つくば市の自営業、石田佳織さん(46)が指差した方に目を向けると、茂みの中に細かくちぎった枯れ草を寄せ集めたような塊が見えた。大きさは、手のひらで包み込めるくらい。丸く、ふんわりしていて、茶色く乾いたセイタカアワダチソウの茎にしっかりついている。
石田さんがこの巣を見つけたのは昨年11月。夫の考英さん(49)と、市内に借りている畑の草刈りをしている時だった。場所は、市内を流れる川沿いで、市街地から徒歩で10分程度の場所にある。週末には子どもたちと一緒に取れたての野菜を畑で調理し食べるなど、家族で自然に触れ合う憩いの場になっているという。
市民活動を通じてカヤネズミの知識があった石田さんは、自身の暮らしのすぐ隣に絶滅危惧種に指定されるカヤネズミがいることを知り、「まさか、ここにいるとは思ってもみなかったので、思わず『すごい!』と、離れたところにいた夫に呼び掛けた」と振り返る。
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暮らしが変化し激減
かやぶき屋根に使われるカヤが茂る場所を好んだことから名付けられたカヤネズミは、本州以南の41都道府県で生息が確認されている国内最小のげっ歯類。体長は5~7センチほど、重さは500円玉と同程度の10gほどだとされる。前足と歯を使って植物の葉をちぎり、編んで直径10cmくらいの球形の巣を作るのが特徴だ。巣は、地面から1メートルほどの高さに、周囲に茂る植物の葉を利用し固定する。かつては、家屋の屋根に用いられたススキやヨシが生い茂る「かや場」や田んぼなど、イネ科の植物がある場所に多く生息していた。近年は、都市開発や農村の変化などにより個体数が減少し、茨城県を含む33都府県で、絶滅が危惧される生物種としてレッドデータブックに掲載されている。
1990年代からカヤネズミの実態調査を続ける、土浦市の認定NPO法人「宍塚の自然と歴史の会」の阿部きよ子さんは「よく見られたのは、河川敷や川の土手、田んぼの中や縁など。かつてはコメを食べてしまうと考えられ、見つけると巣ごと踏みつぶされていた」と話す。だが周辺地域を含めて「近年は激減した。以前は一つの株に複数の巣があるのを見ることもあった。今は巣自体を探すのに苦労する」と言う。
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激減した背景に、人の暮らしの変化を指摘する。「カヤネズミが巣を作っていた田んぼで、季節に合わせた稲作をしなくなった」とし、「かつて稲刈りが終わるのは11月。彼らが越冬する直前の、秋の終わりまで田んぼに稲があった。いまは刈り取られてしまい、まだ巣が必要な時期に稲がなくなった。カヤ場もなくなった」。
阿部さんが長年調査してきた場所も年々変化している。かつて田んぼだった場所が宅地として開発されるところも少なくない。「今は、少ないながらも生き延びられるところを見つけて、生きている」状態だとする。また近年は、特定外来生物に指定されるアライグマの被害もあると考える。「カヤネズミは寿命が1年から2年と短い。増えるときは増えるが、(繁殖が追いつかずに)減る時には一気に減ってしまう」。
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見つけたら、どうする?
減っていると感じる動物は他にもいると阿部さんはいう。「ヒミズモグラもノウサギも激減した。しっかりとした調査が行われていないから、それらの生き物がどの程度いたかという証拠がない」と指摘する。
「全ての生き物は、自然界のバランスの中でコンロトールされてきた。バランスが崩れることで、自然の中にある食物連鎖が壊れてしまう。結果的に人間もそのつながりから切り落とされる。大事なのは人間もこの輪の中にいる。一つの生き物がいなくなるということは、全体のバランスが崩れているということ。人間だけが独立して生きているわけではないので、いつかその影響は人に降りかかってくる。だから自然環境を守ることは大切になる」
阿部さんはこう指摘した上で、カヤネズミなどの希少種に出会った時にどうすればいいのかについて「放置する。触らない、近寄らない、それが一番。人があまり関わらない方がいい。私たちが暮らすつくば市、土浦市にも、そういう生き物がいるということのが大事」だと話す。(柴田大輔)