【コラム・平野国美】多動性。教育の現場では「落ち着きが無い」と言われる子どもがいます。現代の基準には合わないかも知れませんが、歴史上の人物の行動パターンから、多動性ではないかと思われる英雄がいます。
ナポレオン。非常にエネルギッシュで、多くの戦闘や改革を迅速に進めました。彼の決断力や行動力は、現代の多動性に似ています。アッティラ。彼はフン族を率いて欧州を侵略、多くの戦闘を指揮しました。彼らの大胆な行動力は、多動性の特性に類似しています。
彼らの無駄なほどエネルギッシュな個性が、広範囲に移動しながら戦闘することを可能にしたのではないでしょうか。
アフリカに生まれた我々の先祖、ホモサピエンス。彼らのリーダーは砂漠を横断し、北欧、アジアへ。そのエネルギッシュな移動をリードしたのは、多動性の資質を授かった者だと思うのです。
進む先が地獄かも知れないのに歩き続ける彼らの姿は、最近、私がお会いする元研究者たち―今は患者さんとしてですが―の現役時代と重なります。実験の先にあるものが、成功なのか失敗なのかわからぬまま、突き進む姿です。そこには名誉欲など存在せず、好奇心のみがあったように思えるのです。
衝撃的なゴッホの行動特性
芸術に目を向けると、ゴッホが代表的存在です。多くの絵画を短期間で制作しましたが、その行動特性は衝動的でした。彼の創造力とエネルギーには、注意欠如・多動症(ADHD)の特性と一致する何かがあったように思います。しかし、現代風に言うところのコミュニケーション力や社会性はなかったようです。
子供のころ読んだ偉人伝や伝記には、彼らの少年時代の一風変わった性格や奇行が描かれていました。
これらの人物が多動性を持っていたかどうか、確証はありません。しかし、残された逸話などを手掛かりに考えると、その行動や特性が多動性に関連している可能性があります。ADHDにしても自閉スペクトラム症(ASD)にしても、特殊な条件や環境が設定されれば、抜群の能力が発揮される可能性があります。
私は仕事を通して、伝記に出てくるほどの人でなくても、多くの天才の老後生活を見ています。彼らから読み取れる物語は興味深いものがあります。(訪問診療医師)