日ごろ探究活動や課題研究に取り組む高校生が第一線研究者を前に発表を行い、考え方や進め方について指導を受ける「科学交流会」が16日、つくば市竹園のつくば国際会議場で開かれた。今回はつくば市内3校の高校生6個人・グループが発表を行い、2022年度の江崎玲於奈賞受賞者、磯貝明東京大学特別教授から質問や助言を受けた。
江崎賞の歴代受賞者を会員とする「受賞者の会」(榊裕之会長)を発足させた茨城県科学技術振興財団(江崎玲於奈理事長)が主催して行う初めての事業で、関彰商事(関正樹社長)が協賛した。高校生が取り組んだ内容や成果を発表し、研究者からアドバイスを受けて、科学に対する学習意欲、探究心をさらに高めてもらおうとするのが目的。並木中等教育学校、つくばサイエンス高、茗渓学園高の3校から6個人・グループが発表を行った。
生長阻害物質の証拠探す
茗渓学園高2年の中山奏楽さん、片岡愛奈さんは別個に植物のアレロパシーの研究に取り組んだ。アレロパシーは植物が放出する化学物質によって他の生物の生長を阻害するなど、何らかの作用を起こす現象。植物が分泌する化学物質を「アレロケミカル」といい、生物農薬や環境対策に使えないか、関心が寄せられた。
中山さんはキノコのタモギタケ、片岡さんはアジサイの花から浸出させた物質からアレロパシーが活性化する証拠を見出そうと実験と観察を繰り返した。タモギタケでは軸より傘の部分が多くのアレロケミカルを持ち、アジサイでは植物の生長を阻害する働きがあると判定できる試料を見つけることができたとした。
講師の磯貝さんは「実験ではメタノールなど有機溶剤を安易に使わない方がいい」など技術的なアドバイスをしながら、「身近な関心に基づいた研究は自立の原点。大人社会では目的に対して研究開発を行う目的達成型が評価されるが、関心に基づいた実直な研究のスピリットには感銘を受けた。この先も大切にしてほしい」と励ました。
究極の黒、出来上がった
並木中等5年生(高校2年)の松田菜央さんは、ヨウ素の偏光板を作って偏光について研究しようとしたが、真っ黒なものしかできず一旦は挫折した。そこで黒さをそのまま生かした材料開発に取り組んだ。ヨウ素を用いたシート状の「黒体材料」を作製し、その吸収率を測った。
合成高分子のPVA(ポリビニルアルコール)にヨウ素の染色液を塗って作ったフィルムは最初96%の吸収率を計測した。PVAとヨウ素の包接化合物が形成されるが、らせん構造がヨウ素分子を引き込むと考察できた。そこでPVAのらせんの長さを違えると吸収波長が多様化し、ヨウ素は可視光全域の光を吸収できると考えた。フィルム表面に微細な凹凸を施して反射を防ぐ改良をすると吸収率は99.4%、「プロにも負けない自分なりの究極の黒」が出来上がったとした。
磯貝さんは「実験に失敗はない。失敗しても、その結果を次の実験に生かすチャレンジを続けてほしい」と評価した。
先輩が残した実験装置で
つくばサイエンス高は全員1年生の7人グループで「微小重力環境におけるがん細胞の影響について」をテーマに取り組んだ。同校には先輩の残したクリノスタットという実験装置があり、2つの軸を回転させ360度方向に重力を分散することによって微小重力環境を再現するものだそう。
これに白血病に由来するヒト単球細胞株から培養した細胞を計測板に置き動作させ、静置したものとの比較で細胞数の増減を見た。結果、微小重力下では通常重力下に比較し、細胞の増殖速度が約半分に落ちたという。微小重力環境ががん治療に新たな可能性を開くかもしれないとした。
メンバーの一人、末永円さんは「学校にはいろいろ実験設備があって毎日の勉強が楽しい。私たちはがん細胞を取り上げたけど、他校はアレロパシーとか身近な植物の力を追求していて、一緒に研究出来たらもっと楽しいだろうなと思った」と感想を語った。(相澤冬樹)