自動車の盗難被害が多発する茨城県内で、県南地域での被害が顕著だ。特につくば市は、10月末時点で年間75件を数え、全国市区町村別でワースト1位となっている。県内で2番目に多いのは38件の土浦市で、両市の合計は2024年の県内自動車盗難件数461件の約4分の1を占める。県警は、市民の防犯意識を高めようと啓発活動に力を入れているが、大きな変化に結びついていないのが現状だ。
「11月9日夕方から11月10日の朝方までの間に、茨城県つくば市筑穂で盗難に遭いました」ー。
10日午後5時、トヨタ・ハイエースの写真と共にX(旧ツイッター)に情報提供を求めるメッセージが流れた。投稿したのは北海道空知郡奈井江町の土木関連会社、剛健工業(浜島剛社長)のアカウントだ。北海道からつくば市内の建設現場に出張中の同社社員が車両盗難の被害に遭った。同社の柴田大輔さん(40)が異変に気づいたのは10日早朝。滞在する市内のアパートから外を見ると、目の前の駐車場にあるはずの車がない。「まさかと思った」と振り返る。すぐに警察へ届けるも、「見つかるか分からない」と言われたと話す。
柴田さんら社員4人がつくばに来たのは今月6日。市内の工場現場で、来年4月末までの予定でフェンスの基礎や縁石ブロックの設置工事にあたるためだった。陸路とフェリーを利用し、2台の車で茨城に来た。被害にあった日、前日は休みで午後9時ごろには就寝し、10日は朝6時に起床した。車内にはドライバーやつり金具、グラインダーなど40万円相当の工具が積まれていた。盗難後は急場をしのぐため必要最低限の工具を買いそろえ、車両は再度、北海道から呼び寄せた。「会社でも盗難は初めて。全く気づかなかった。盗られたのはしようがない」と気持ちを切り替える。
夜間から早朝にかけ連日
県内の犯罪情報を知らせる県警による防犯アプリ「いばらきポリス」によると、11月だけでもつくば市内では他に▽2~3日にかけて妻木付近▽6~7日に陣場付近▽7~8日に小野崎付近▽9~10日に蓮沼付近▽11~12日に学園南付近▽12~13日の間に二の宮付近と、連日、車両盗難が起きている。土浦市内でも今月、都和、神立、真鍋などで発生している。被害に遭うのは夜間から早朝にかけて。乗用車はトヨタのプリウス、ランドクルーザーなどが、貨物車ではトヨタ・ハイエース、いすゞ・エルフなどが被害の上位を占めている。その他にアルファードやレクサスなどの高級車の被害も目立つ。県内では貨物車の被害も多く、盗難全体の約半数が住宅の駐車場などで起きている。
茨城県は、人口10万人あたりの車両盗難件数が、2023年まで17年連続で全国1位を記録している。首都圏に近く港湾へのアクセスが良いことや、広い土地を比較的安く使用できることから盗難車を解体する「ヤード」がつくりやすいことなどが背景にあるという。盗難車は解体後に部品として国内外で販売されていく。つくばや土浦で特に被害が多い理由について県警の担当課は「被害が増えている県南や県西地域は人口が多く、相対的に車の保有台数が多い」ことだとし、犯罪グループの活動が広域化、組織化していることが検挙を難しくしていると話す。
2022年2月に福島県内で工事用車両を盗んだとして逮捕されたつくば市の自動車整備工の男ら2人は、関東、東北、東海で計280台を盗んだグループのメンバーとみられる。他に23人が同グループメンバーとして逮捕されている。また同年8月に高級車「レクサスLX」を盗品と知りながら取引し、保管した疑いで逮捕された筑西市の自動車整備会社経営の男ら5人は、大阪や愛知で盗まれた高級車約200台を引き取り輸出目的で解体した。被害総額は10億円超に上るとされる。今月7日には潮来市の男ら4人が関東5県で車両110台超を盗み、被害は約1億円に及んでいる。これらの事件は日本人、外国人を含む犯罪グループによるもので、犯行が複数の都府県に及ぶため合同捜査体制が組まれている。
防犯意識向上を
県警は「盗難場所として最も多いのは、住宅等の駐車場で全体の約5割。その他、会社や事務所、月極駐車場、工事現場や資材置き場などが続いている」とし、「犯人は物理的に時間がかかることを嫌う。バー式ハンドルロックや鍵でタイヤを固定するタイヤロックなどが有効。防犯カメラやセンターライトの設置も推奨している。複数組み合わせることでより効果的になる」と、二重、三重の防犯対策を呼び掛け、「個人では費用的に難しいこともあると思うが、防犯意識の向上につなげてほしい」と語る。