【コラム・田口哲郎】
前略
テレビのワイドショーで、ご近所トラブルが取り上げられることがあります。住民が行政に苦情を申し立てますが、行政は争っている住民どちらにも配慮しなければならないので、解決策はなかなか出ない。すると、ワイドショーのMCは「地域社会でしっかり話し合うことが必要ですね」という締め方をします。MCはご近所同士で、くらいの意味合いで使っているのでしょう。でも、コメントを聞くたびに、「地域社会とはなんだろう」と思います。
新興住宅地に暮らし、独身であるわたしには地域社会というものがピンとこない。日々近所ですれ違う人びとは見知らぬ人です。両隣の人の苗字くらいは知っていても、その先の人の名前はおぼつかなく、顔も知りません。実際に町内会はあるし、子どもが公立小中学校に通っていれば、地域社会というものに実感がわくのでしょう。
でも、たとえば地方の山村に暮らせば、血縁、地縁がまだあり、近所はみんな親戚か知り合いということは珍しくありません。おそらく、そういう土地に住む方々には「地域社会」はピンとくるのでしょう。新興住宅地で生まれ育ち、独身で、いわゆる無党派層で、東京など大都市に通勤・通学している人にはあまりピンとこないと思います。
日本経済を支えてきた都市中間層
国民的アニメ、ドラえもんも、ちびまる子ちゃんも、クレヨンしんちゃんも、新興住宅地が舞台です。さして地縁や血縁がなさそうな土地で都会的な生活を送っている人びとの物語です。昭和にはそういう新興住宅地が全国につくられ、核家族が暮らし、日本経済に活力を与えていました。
でも、グローバル化、長い不況、低成長時代が続き、サラリーマンの所得が減りました。そしていわゆる都市中間層の活気はなくなりました。これからは、成熟した都市社会が「地域社会」を再発見し、人びとのつながりが復活し、新しい活気が生まれるといいですね。ごきげんよう。
草々
(散歩好きの文明批評家)