【コラム・高橋恵一】昨年、日本のGDP(国内総生産)がドイツに抜かれて世界第4位になり、2025年にはインドにも抜かれるようです。ちなみに、1人当たりGDPは34位です。かって世界2位だった日本としては残念な気もしますが、もともと人口も国土面積も世界の中位なのに、米国に迫るGDPというのは出来すぎだったのかもしれません。
GDPは1人当たりGDPの総計ですから、中国やインドは日本の10倍以上の人口を擁していることを考えると、日本だけでなく、米国を抜くのも当然と言えるでしょう。
高度成長のバブル崩壊による終焉(しゅうえん)には、日本だけでなく欧米も含め世界中が見舞われました。次の経済政策選択のときに、日本は米国に追随し、新自由主義経済を選択しました。結果、収益の最大を究極の目標として、全体の需給趨勢(すうせい)も見ず、コストの最小化を人件費と原材料費の削減に向けたのです。
つまり、経済構造の立場の弱いところに押し付けたのです。コスト削減の対象は、社会保障費の公的支出にも向けられました。しかし、新自由主義経済を選択したこれらの低賃金体制は、内需を停滞させました。
日本は「中福祉負担」を選択
バブル崩壊後の別の選択肢は、北欧・西欧の福祉国家でした。ところが日本では、福祉国家を高福祉高負担の税金の高い国とし、いくら働いても税金で取られてはたまらないと、中福祉中負担を選んだのです。高負担を否定する世論は、日本と米国だけではないでしょうか。北欧では、国民全体が幸福になるのであれば税負担は当然と考えているようです。
新自由主義経済に批判的なノーベル賞経済学者のJ.スティグリッツは、アベノミクス失敗の日本に対し、「私たちが一番大切に思うのは、自らの子どもたちと親たちです。その大切な人たちのケアをする教師や看護師にはその労働に見合った賃金を払うべきであり、それができるのは公共、つまり政府です」と指摘しています。
北欧5カ国は、1人当たりGDPの世界ランキングではそろって最上位を占め続けています。日本との違いは、女性の社会政治経済分野での存在が桁違いに大きいことです。というより、男女差がありません。ジェンダーフリーも労働時間の短縮も環境対策も、ずっと前から取り組まれています。医療・福祉も国民の幸福度を高める分野の需要として、人材も資本も投入してきたのです。
低賃が上れば個人消費が回復
政府は、年金制度の維持を可能とする見通しを発表しましたが、その前提として、まだ男女格差、高齢者と外国人労働者の低賃金を置いています。日本は、社会保障費削減や年金引き下げをすれば政権交代が起こるような、不公平な格差を許さない福祉国家(北欧では当たり前なので自らを福祉国家と言わない)の社会経済政策に、今すぐ切り替えるべきでしょう。
低賃金が治れば個人消費が回復し、若者の未来も明るくなります。日本の経済学者と優秀な官僚なら、実現できると思います。本来の内需拡大で、妥当な1人当たりGDPを取り戻しましょう。(地図と歴史が好きな土浦人)