つくば市遠東にある自然体験施設「豊里ゆかりの森」に3日、新しく美術館がオープンした。展示棟として活用されていた建物を市が改修し、美術館としてリニューアルオープンさせた。「祈りからの出発」と題された開館記念展には、近代日本画を代表する巨匠の一人、川端龍子が雪化粧の山を描いた「白寿」など33点が並ぶ。開館に先立ち開かれた式典には、旧豊里町で町長を務めた故野堀豊定さんの長男・喜作さんら、同施設の地権者数人を始め、約20人の関係者が集まった。
昨年度、市が美術館に改修した展示棟は、1985年に開催された「つくば科学万博」の際に、万博の第2会場に建てられた市民による展示館「LALA館」を、万博終了後に同施設に移築したものだ。
きっかけとなったのが新型コロナが感染拡大した2020年に、施設内の宿舎「あかまつ」を軽症患者の受け入れ施設としたこと。その後、地域住民から豊里ゆかりの森をより多くの市民が活用できる空間にしたいとの声が寄せられ、23年3月に地権者らが「ゆかりの森地権者有志の会」を結成、市はこれに協力し、展示館の改修に至った。改修費は約1300万円。
式典であいさつに立った野堀喜作さんは、施設設立に尽力した父・豊定さんの思い出を振り返りながら「今日は父の命日。当初『ふれあいの森』としていた名称を『ゆかりの森』としたのには、万博でのカナダとの縁があった」と話した。
カナダと繋がった縁
1985年に発行された雑誌「建築設計資料9」(建築思潮研究所編)によると、豊里ゆかりの森の原型は、地域に広がるアカマツを中心とした平地林を生かすための総合的計画として1984年から85年にかけて進められた。近くの同市東光台にある音楽施設「バッハの森」と共に、隣接する森に宿舎「あかまつ」、町民センター、工芸館などをつくる計画が始まりだった。
計画の中でプロジェクトにカナダ人建築家が参加。85年の科学万博でカナダ館館長を務めることになっていたカナダ人のブロンウィン・ベストさんが、建築家の知人だったことから豊里との縁が繋がり、宿舎「あかまつ」が、万博のために来日したカナダ人スタッフの宿舎として建てられた。カナダとの友好の印として、施設名を、両国を結ぶという意味の「結(ゆ)」カナダの「か」、豊里の里をとって「り」をあわせて、「ゆかり」としたという。
式典であいさつに立った五十嵐立青市長は「いよいよのオープン。最初の企画『祈りからの出発』は、能登地震、新型コロナ感染症を踏まえた、出発の企画。ここから新たに、よりよい一歩を踏み出そうという気持ちがこもっている。ここがつくばのアート、文化の拠点にしていきたい」と思いを語った。今後はつくばにまつわる作品を中心に、さまざまな企画展を開いていく予定。
開館記念展は、地権者有志の会の協力による全3回の開催を予定している。第1回の「祈りからの出発」が23日(火)まで、開館時間は午前9時から午後4時まで。以降、第2弾を今年11月、第3弾を来年3月に予定している。
27日(土)から8月11日(日)は、筑波大学をはじめ、東京芸大、多摩美大、武蔵野美大の35歳以下の在学生、卒業生を対象とした「絵画の筑波賞展2024」を開催する。開館時間は午前10時から午後5時、最終日は午後3時まで。(柴田大輔)
◆いずれも入場無料、月曜休館。問い合わせは029-847-5061(豊里ゆかりの森)へ。