【コラム・奥井登美子】最近、処方箋に「残薬調整」と書かれているのを持ってくる人が多くなった。いい傾向である。そういうとき、我々薬剤師は、患者さんが前にもらった分の残薬を入れて、調剤する。
「残薬調整と処方箋に書いてありますので、すみませんが、残薬を見せて下さい」
家に残っている薬の数を紙に書いて持ってくる人もいるが、私は実物を見せてもらっている。薬を大事に保存している人の中に、期限が切れた昔の薬が混ざっていることがあるので、私は必ず錠剤の形や色などを点検して、期限を確かめている。
自分の薬は自分で持って逃げる
「随分たくさん、薬が残ってしまいましたね」
「ハイ。引き出しを整理したら、いつの間にか、こんなにたくさん…」
「大地震があったときの『緊急事態用』に、1週間分ぐらい別にして、救急カバンに入れておいたらいいと思いますけど」
「救急カバンなんて、ないわ」
「自分で作るしかないですよ」
「避難するような大地震なんか、この辺りであるわけないと思いますが…」
「関東大震災から100年です。もしかして地震があって、万一避難するとき、自分の薬だけは自分で守って持っていく。そういうときのために、自分用の救急袋を作っておいたらいいと思いますけど…」
「能登半島の地震のとき、薬はどうしたのでしょう」
「さあ、わかりませんが、防災は個人個人違うと割り切って、大切なものを大事に保管しておいたらいかがでしょう」
無いと困る血圧や心臓の薬
医療の不備だった事例はいろいろ報道されているけれど、薬は、個人個人あまりに違いがありすぎるせいか、あまり報道されていない。薬剤師会の中に「災害時情報共有システム」という組織が地域ごとにあるが、電気もない中でどう働くのか、私にもわからない。
血圧の薬。心臓の薬。1週間以上休薬することができない薬は多い。薬はかさばるものではない。せめて自分のいつもの薬くらいは、緊急時に持って避難することを心掛けてほしい。(随筆家、薬剤師)