土浦市の能面師、山口義法さん(68)が主宰する能面制作集団「法面会 能面工房」(土浦市並木)による作品展が、4月2日から土浦駅西口前の土浦市民ギャラリーで開かれる。同会で活動する作家6人と、山口さんが師事した故・菅原法房さんによる作品34点が展示される。
全身全霊で、自分の思いや魂をノミの先から木材に打ち込む−。能面制作で大切なことを山口さんはそう表現する。自宅に構える工房には、自身のこれまでの作品が壁に並ぶ。能の舞台では、それを身につけ演じる能楽師が、異なる表情の面を用いることなく、一つの面で全ての感情を表現する。ある演目では戦いの場面の後に、再会する我が子に向ける慈愛へと、同じ舞台の中で変化する表情を表現する。
「能楽師は、左右対称の面は舞台で使えないと言う。きれいな面が必ずしも舞台で力を持つわけでもない。だから作る時は、実際に舞台の距離まで離れて(面の)顔つきを見る。10メートル先に置いた時に本当に力が出るか確認しながら制作する。曲を学び、能楽師から意見も聞く。能楽師と面が一致した時、ものすごく良い舞台になる」。

土浦市出身の山口さんが能面制作を始めたのは約30年前。会社員として赴任していた宮城県で出合った能面がきっかけだった。仕事の合間に家族と訪ねた同県栗原市の公民館に展示されていた作品だった。吸い込まれるような気持ちで見つめていると、「面が好きなんですね」と声を掛けられた。声の主は、後に師となる制作者の菅原法房さんだった。菅原さんは、大正から昭和にかけて活躍した能面師・入江美法に師事した同市の旧金成町出身の能面師だ。山口さんはその後、会社員として働きながら菅原さんの元を訪ねて技術を学んだ。菅原さんは山口さんに「この仕事は職人仕事。決まったことをコツコツやるのが大事」だと伝えた。
50歳で脱サラ
転勤が多い仕事だったため、途中から、学齢期を迎えた子どもと妻が地元の土浦に戻り、単身赴任をしながら制作を続けた。50歳を迎えた2005年に退職を決意。土浦で能面師としての活動に専念する。退職前に知人からの声掛けで始めた市民講座や、毎年開催を重ねてきた個展を通じて地域とのつながりもつくってきた。地元団体から神楽に使う面の修理を請け負うこともある。退職前の03年に、個展の来場者や教室の受講生らと開いたのが「法面会 能面工房」だ。現在は、土浦や周辺に住む70歳代を中心とした7人が所属し、都合の合う日に工房に集まり、作品制作にいそしんでいる。
形だけでなく、情熱を作品に込める
「稚拙でも、魂のこもったものが力を発揮すると、私は思っている」と山口さんは話す。最近は、AIが作る面の精巧さが能面師同士の議論に上がることもあるというが、「大切なのは、想像力。心の世界」だという。「小学生が初めてザリガニを見た時の感動で描いた絵や、失恋した人が気持ちを込めて歌うカラオケの歌に心を打たれることがある。形だけを写したものは感動しない。自分の思いを打ち込めば、見る人に伝わると信じている」と力を込める。

今回、作品を展示するメンバーは、それぞれ5年、10年、15年と制作に打ち込んできた作家たち。「人が集まることでより良いものができると思っている。私が教えるのではなく、一緒にやりましょうという思い。作ろうという情熱があれば誰にでも作ることができる。伝統文化は守っていかなければいけないもの。若い人にも是非、伝えていきたい」という。
◆「法面会 能面展」は4月2日(火)~7日(日)まで、土浦市大和町1-1、アルカス土浦1階、土浦市民ギャラリー内オープンギャラリー1で開催。開館時間は午前10時~午後6時。初日は正午から、最終日は午後4時まで。入場無料。