【コラム・田口哲郎】
前略
目白御殿と呼ばれた旧田中角栄邸が全焼したというショッキングなニュースが飛び込んできました。線香の火の不始末らしいのですが、ケガ人がなくて不幸中の幸いでした。
焼けてしまった家の主人だった田中角栄のドキュメンタリーが先日、放映されていました。「映像の世紀バタフライエフェクト」です。角栄の生涯については皆さんご存知だと思います。大変な苦労人で戦後すぐに商売で成功し、政治家になり、東京と地方の格差是正を政治テーマとして自民党で頭角を現し、ついに総理大臣になり、有名な列島改造論を実行していきます。
角栄は東京と地方の格差是正のために、日本中に道路を通しました。その財源はガソリン税でした。資金分配の権限を握った角栄のところには全国から陳情する人びとがやってきて、目白御殿には陳情団の行列ができました。
その角栄がもうひとつ目をつけたのがテレビ放送です。郵政大臣時代には多くのテレビ局開局の認可を与え、テレビ全盛時代の礎をつくりました。その後の大蔵大臣時代には自らの番組を持っていたというから驚きです。角栄は道路で、東京と地方の物理的格差を解消し、テレビを普及させることで情報の格差もなくそうとしました。
道路と同じように必要なTV情報網
先日の能登半島地震では道路が崩れ、救護活動が妨げられて損害を大きくしています。道路は国民生活にとって大切なことが改めてわかりました。そうなると、テレビ放送網も同じく国家には必要不可欠なものなのだと思います。
テレビ業界は斜陽産業と言われて久しいです。たしかに、テレビ以外に映像情報を提供するツールが出てきて、競争が激化しました。でも、映像情報を提供すること自体が重要なことは変わりません。テレビジョンはかつてのように独占的な地位を保てるわけではないけれども、なくなることはないでしょう。
コンテンツの良し悪しは関係なく、情報網が大切です。なぜなら、近代国家は国土の平均的な発展を基礎として成り立っているので、道路とテレビ放送網がなければ成り立たない仕組みになっているからです。
テレビはつけておけば勝手に番組が映って、次から次へと情報が入ってきます。そしてその情報にはある程度の信頼性がある。こんなに見る側にとって楽なツールはありません。道路がなくならないように、テレビはこれからも存続し、われわれに新たな情報を提供し続けるでしょう。
田中角栄が描いたユートピアをわれわれが今も生きているのというのはなんだか不思議な気がします。テレビの今後をどうするのか。ニーズが角栄のときとは変わっている今こそ、考えるべきなのかもしれません。ごきげんよう。
草々
(散歩好きの文明批評家)