土曜日, 6月 20, 2026
ホームつくばバージョンアップの「Belle Ⅱ」1月再起動 KEKの加速器衝突実験

バージョンアップの「Belle Ⅱ」1月再起動 KEKの加速器衝突実験

中心に丸い孔(あな)の開いた正八角形の扉は鉄製で、真ん中で2つに断ち切った形状をしている。1枚の重さは約150トン、2枚合わさると高さ、幅ともに約8メートルになる。扉は「エンドヨーク」と呼ばれ、前方と後方に一対ずつある。それぞれの下部4カ所にはハンドルが取り付けられ、手動で勢いよく回すと扉はミリ単位で動き、1000回以上回してようやく八角形の片方が閉じる。そんな作業が昨年末、高エネルギー加速器研究機構(KEK、つくば市大穂)の実験装置「Belle Ⅱ(ベル・ツー)」で行われた。

扉でサンドイッチするように閉じられた装置の内部は、検出器と電磁石が同心円状に折り重なった構造をしている。光速近くまで加速された電子と陽電子が、大型加速器「SuperKEKB(スーパー・ケック・ビー)」の2本のビームラインを互い違いに走り、装置の孔に向かって突入すると、強力な磁場によって収束し、衝突する。衝突点で生成し、崩壊する素粒子の性質を調べて、宇宙創成の未解明な謎に迫る。新しい物理現象を探す実験は1月末、バージョンアップして再スタートする。

「物質」しかない宇宙の謎に迫る

周長約3キロの円型加速器SuperKEKBは、メーンリング上に4つの実験棟が配置されているが、衝突点として機能しているのは筑波実験棟だけ。背後に筑波山の控える実験棟屋内に、重さ約1400トンの観測装置のBelle Ⅱが設置されている。22年7月からロングシャットダウンと呼ばれる運転停止期間中で、加速器や検出器の改良ののち、1月末の運転再開を目指していた。Belle ⅡのB、KEKBのBは、素粒子の一種「B中間子」にちなむ。

マイナスの電荷をもつ電子とプラス電荷の陽電子は、前段の線形加速器でそれぞれ70億電子ボルト(7GeV)、40億電子ボルト(4GeV)に加速され、メーンリングに射出される。2本のビームラインの交点で衝突するとB中間子が大量に生成され、崩壊(より軽い素粒子に変化する)までに100ミクロン程度の距離を移動する。その崩壊過程を詳しく調べる装置というわけだ。

常設展示ホール「KEKコミュニケーションプラザ」に展示されている小林誠KEK名誉教授のノーベル賞メダル(複製)

前身の衝突型加速器KEKB(ケック・ビー)は1999年から2010年まで運転され、Belle実験が行われた。B中間子におけるCP対称性の破れを検証し、小林誠、益川敏英(故人)両氏のノーベル物理学賞(2008年)受賞につなげている。「CP対称性の破れ」は難解な物理学の理論だが、ほぼ「物質」だけで満たされている私たちの宇宙の成り立ちを説明するのに有効だ。宇宙の始まりのビッグバンでは「物質」と「反物質」が同じ量だけ作られたと考えられているが、なぜか「反物質」は消えてしまった。この仕組みを説明する理論とされる。

Belle Ⅱでの衝突実験は2018年に開始された。前身のBelle実験で蓄積されたデータの50倍のデータを収集・解析する目標が立てられ、昨年末の時点で28カ国、1100人の研究者が参加している国際共同実験となっている。

稀有な現象を大量のデータから探す

B中間子は、陽子の5倍程度の質量をもつが、崩壊までの寿命は1.5ピコ秒(0.0000000000015秒)しかない。光速に近い加速器での衝突実験では、この寿命を延ばすことができ、飛行距離は100ミクロン程度になる。今日の科学の測定限界に達し、いろいろな崩壊現象が見えてくる。しかし電子と陽電子が測定器内で数億回交差しても衝突に至るのは数千回、ほとんどがすり抜けていく。1秒間に3万回の記録をとっても興味ある事象は数例にとどまるという。そこで、より多くのデータをためて現象を調べるために「ルミノシティ―」(衝突頻度)というパラメーターが重要になる。今回の改良ではこの向上が最大の眼目になった。

装置の最深部には崩壊点検出器(VXD)がある。ビームパイプの中心から数センチのところにピクセル型検出器を2層構造で設置した。一種のデジタルカメラで、2層目のモジュールを12枚の完成形にしたドイツ製の装置が運びこまれた。この装置を組み込むために、扉が開けられ、測定器の外周部が取り外され、オーバーホール的なシャットダウンが行われた格好だ。

検出装置の説明をする中尾幹彦KEK素粒子原子核研究所教授

加速器側もビーム入射を細く絞る形でルミノシティ―の向上を図った。計量上の言い方は難しいが、これまでの記録はKEKが持っていた1平方センチ1秒当たり2.1×10の34乗だった。改良後のルミノシティ―は同4.7×10の34乗という「世界最高性能」(松岡広大KEK素粒子原子核研究所准教授)の値になる。加速器性能をあげるのは、は莫大な電力を消費する加速器運転の省エネにもつながるということだった。

物理学では、「標準理論」を構成する17種類の素粒子すべてが発見されたものの、なおも生じる「ずれ」が無視できないでいる。宇宙に物質しかないことの説明には、「超対称性粒子」の存在が示唆されてもいる。中間子のまれな崩壊を精密に調べることで、標準理論の「ずれ」が説明できるかもしれない。

中尾幹彦KEK素粒子原子核研究所教授(Belleグループリーダー)によれば、これまでのBelle Ⅱの運転により、非常にまれな物理現象の1つであるB中間子がK中間子と2つのニュートリノに崩壊する現象が認められたという。ニュートリノは検出できないが、精度をあげていけば統計的に有意な物理現象が見えてくるので、大量のデータを集めて「説明」を確かなものにしていきたいとしている。

リスタートの実験は1月29日に始まり、まずは6月末まで行われる。(相澤冬樹)

◆Belle Ⅱ実験の詳細はKEKのホームページへ。

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

1コメント

1 Comment
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

92校84チームの対戦カード決まる 7月4日開幕 高校野球茨城’26

第108回全国高校野球選手権茨城大会の組み合わせ抽選会が18日、水戸市千波のザ・ヒロサワ・シティ会館(県民文化センター)で開かれ、出場校92校84チームの対戦カードが決まった。大会は7月4日から、ノーブルホーム水戸、ひたちなか市民球場、J:COM土浦、笠間市民球場の4球場で行われ、8月5日から兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で開幕する全国大会出場を掛けた熱戦が繰り広げられる。 昨秋と今春の成績で16校にシード校の権利が与えられた。29年ぶりに春の県大会を制し関東大会でベスト8になったシード校の土浦日大は、2回戦から登場し、開会式直後の第1試合、日立工ー茨城キリストの勝者と対戦する。吉田惺南(せな)主将は「どこが相手でもやることは変わらないので、一戦一戦戦っていく準備をしていきたい。夏の大会に優勝して、甲子園でも勝って、日本一を取ることが自分たちの目標」だと意気込みを語った。 開会式は7月4日にノーブルホーム水戸で行われる。選手宣誓は26番の札を引き当てた勝田工業の仁平晃祐(こうすけ)主将に決まった。 大会が順調に進めば、決勝は7月25日午前10時にノーブルホーム水戸で行わる。 熱中症対策として、第1試合の開始時刻を昨年より30分早めて午前9時に変更する。3回、7回終了後に3分間の給水タイムと、5回終了後に5分間のクーリングタイムを設ける。延長10回からはタイブレーク(無死1、2塁の状態)が採用される。 また指名打者(DH)制が茨城大会として初めて導入される。  連合チームは、今大会から新たに加盟したわせがくPURE、2年ぶりに出場する岩瀬、茎崎、茨城東、結城一、総和工、笠間の「茨城連合」、那珂湊と茨城高専の「那珂湊・高専」、麻生とつくば国際大の「麻生・国際」の3チーム。部員不足により、玉造工、神栖、竜ケ崎南、真壁、明野、三和、石下紫峰、坂東清風が不参加となった。 「昨年以上の成績を」 昨年3回戦に進出し、18年ぶりとなる過去の最高の成績を残した土浦工業は今年、2回戦から出場し、藤代ー石岡商の勝者と対戦する。助川誓哉主将は「皆で明るく楽しく協力しながら戦い、昨年以上の成績を残したい。」と語った。  学校名がつくば工科から変更になって2年目を迎えたつくばサイエンスの初戦は石岡一。前田泰輝主将は「10人の部員数でも最後まで諦めず全員で戦い、一戦必勝でサイエンスとして初めての初戦突破を目指す」と話した。 つくば国際は、部員不足で2003年の部創立以来初めて、麻生高と連合チーム「麻生・国際」をつくり挑む。初戦は、昨年19年ぶりに出場した茎崎を含む「茨城連合」と対戦する。川口翔大主将は「(連合として)初めての経験なので、日々練習を重ね、1勝を目指す」と力を込めた。 入場料は一般800円。中学生以下は無料で、高校生は学生証を提示すれば無料。(高橋浩一)

かすみがうら市、土浦市に合併協議・検討の場設置を要請

土浦市長「内容を精査し検討」 土浦市との合併に向けた協議・検討の場の設置を求める決議が16日、かすみがうら市議会で全会一致で可決されたのを受けて(6月11日付)、かすみがうら市の宮嶋謙市長と来栖丈治市議会議長が17日、土浦市役所を訪れ、土浦市の安藤真理子市長と勝田達也市議会議長にそれぞれ、合併協議・検討の場の設置を求める要請書と要望書を手渡した。 宮嶋市長の要請書は「土浦市との合併は長年の悲願で(2003年の)任意合併協議会が、議論の入り口である合併方式をめぐって対立し、協議が途絶えてしまったことは大変残念」だとし、両市は「単に行政境界が接しているばかりでなく、歴史的にも生活圏域でも一体的で、これまでの経緯を踏まえるなら市議会の要望書は、市全体の要望」だとした上で、「現在政治に携わっている者は、若い世代や新しく生まれてくる命に重い責任を負っている」「(両市が)抱えるまちづくりなどの共通の行政課題の解決に向けては合併協議が極めて有効な解決の処方箋」で「将来的には県南の50万人の中核拠点都市の実現を目標とし、2市合併に向けた協議・検討の場を設置」するよう要請している。 来栖市議会議長の要望書は「急激な少子高齢化を伴った人口減少が社会経済や行政運営に及ぼす影響が懸念される」とした上で、両市は「神立駅西口の土地区画整理事業などを共に推進してきたほか、通勤・通学、買い物、医療など住民の生活圏域も一体化が進んでいる」とし、さらに「つくばエクスプレスの県内延伸では、(両市は)延伸構想を実現し、整備効果を県内全域に波及させていく上で鍵となる重要な地域」で、「厳しい財政状況下にあって将来を展望した時、今この時期を逃さず、共通する行政課題や一体的なまちづくりを検討することが不可欠で、合併協議・検討を抜きに語ることはできない」などとしている。 要望書を受け取った後、記者団の取材に応じた土浦市の安藤市長は、今後の対応や進行について「内容を精査し検討したい」を述べ、その上で「広域連携は今後も進めていきたい。将来的には合併が必要になるかも知れないが、両市民の生活に影響を与える大きなテーマであり、大事なのは市民生活を低下させないこと」だなどと語った。市議会の勝田議長は「明日議会があるので、議会運営委員会に諮問し、検討したい」とした。 一方、かすみがうら市の宮嶋市長は、要請書としたことについて「要望書から要請書に変えたのは、一方的なものから協力関係にあるものにしたいと思いから」だとし「規模からいっても土浦市に編入という形になると思うが、これがスタートであり、つくば市まで含めた広域的なものになっていくのが良いのではないか」と語った。 昨年10月時点の国勢調査人口速報によると、かすみがうら市の人口は3万8413人で減少傾向が続く。一方土浦市は14万1588人で微減となっているが、かすみがうら市の3.7倍の人口規模がある。面積は、かすみがうら市が約156平方キロメートル、土浦市が約123平方キロメートルで、かすみがうら市の方が1.27倍広い。(榎田智司)

野菜の地産地消《ご飯は世界を救う》73

【コラム・川浪せつ子】今回は飲食店ではなく、野菜販売のお話です。1日の野菜摂取量は、緑黄色野菜120グラム+淡色野菜230グラムで、合計350グラムといわれています。多いかな?とも思いますが、茨城県は農業大国。つくば市は、研究学園都市ですが、農業都市といってもいいほど、JAの直売所などが多いところです。 私が都内から茨城県に移って来たとき、初めてニンジンの葉っぱを見て、感動したことを覚えています。それまでは野菜の全容を知らずに食していました。 直売所は、朝採りの新鮮さ、お手頃価格だけではありません。直売所によって、置いてあるものの種類が違います。スーパーでは見かけない野菜にも、出合うことがあります。驚いたのが「そうめんカボチャ」。見た目は普通のやや細長いカボチャですが、皮をむいてゆでると、そうめん!になっちゃっています。 また、形の不ぞろいな野菜は、土がついたままひと山=ワンコイン。出合ったときは、どうやって食べようかと楽しみです。お花やお米、それらに関連した加工食品も。今、道の駅が人気ですが、もう一つ、身近な感じのお店がJAなどの直売店ですね。 週1回の青空市 今、私の大のお気に入りは、週1回開かれる青空市です。始まってから40年以上になるそうです。開始時間前には行列! 並ぶのは嫌いなのですが、この場所だけは「今日は何があるかな?」と楽しみです。そこでは、農家の方々とのコミュニケーションと、列をつくるお客さんと野菜料理の話もできます。 最近、農家の方からのレシピは「新玉ねぎのレンチン」。新玉ネギを縦に切り、バター、だし醤油をかけて、ラップして電子レンジでチン。仕上げにカツオ節を。直売所は、地域の台所だけではなく、交流の場。そして、血液サラサラ。また、野菜から季節感を感じることができ、大好きな場所です。(イラストレーター)

砲丸投 森下大地選手が日本選手権2連覇 関彰商事で祝勝会

筑波大出身 関彰商事(本社 筑西市・つくば市)のアスリート社員で男子砲丸投の森下大地選手(31)が、6月12~14日、パロマ瑞穂スタジアム(愛知県名古屋市)で開催された「第110回日本陸上競技選手権大会」で昨年に続き優勝し、2連覇を達成した。16日、所属する関彰商事つくば本社で祝勝会と報告会が催され、社員らが健闘を称えた。 森下選手は、自己記録を2センチ更新する18メートル69を投げ、日本歴代4位となる記録をつくった。祝勝会で森下選手は「昨年は優勝したが記録があまり良くなかった。今回は自己記録を出すことができて、満足するものとなった。この競技のピークは30歳から35歳。今週末は韓国オープンに日本代表として出場する。19メートル台、さらには日本新記録を目指して頑張っていきたい」と抱負を語った。日本選手権はアジア大会の予選も兼ねていたが、アジア大会に名を連ねることはできなかった。 森下選手は兵庫県出身、中学生で砲丸上げを始めた。神戸市の進学校、私立滝川高校(神戸市)から筑波大学に進学した。大学では、同じ兵庫県出身で、砲丸投げで実績のある大山圭悟・同大陸上競技部部長の指導を受け、記録を伸ばしてきた。一時期、拠点を出身地の兵庫県に移したが、今季からつくばに戻り、大山部長の指導を受けながら競技を続けている。関彰商事には今年4月に入社、広報部広報課に所属している。 16日の祝勝会と報告会は、つくば市二の宮、関彰商事つくば本社で催され、森下選手のほか、同じアスリート社員で男子100メートルの東田旺洋選手、先本貴一朗選手、女子やり投の兵藤秋穂選手、弓道の菊地凜選手も参加した。同社スポーツアドバイザーでサッカー男子日本代表(U-23)の大岩剛監督も同席、会場には関正樹社長ほか社員約100人が集まった。それぞれのあいさつのほか、同社の部活動の野球、サッカー、弓道の紹介も行われた。 関彰商事の関社長は「当社は様々な部門がある。それぞれが頑張ることも大事だが、交流することに価値があると思う」と述べ、「アスリートの活躍について、当社に所属してから記録が伸びているという話を聞く。職場環境の問題からもうれしい」と付け加えた。(榎田智司)