水曜日, 5月 15, 2024
ホームコラム次女のおねだり《続・平熱日記》147

次女のおねだり《続・平熱日記》147

【コラム・斉藤裕之】「じゃあお願いね。よろしく!」。次女は私の絵を何かの贈答品ぐらいに思っている。これまでも、友人へのお礼だとか知り合いに子供がいてだとか…、何枚かの絵をねだられて描いた。冗談で手数料としての値段を言ってみたりするが、全く払う気もないし、「ありがとね」くらいの感じで済まされる。

では、それが私にとって腹立たしいことであるかというと、そうでもない。というのも、日ごろ、自分としてはまず描かないだろうというお題をもらっているようなもので、引き受けたときは少し躊躇(ちゅうちょ)することもあるのだけれども、いざ描き始めると結構楽しかったり、意外な発見があったり、出来上がりを喜んでくれたりするのがいい。そこが自分勝手に好きなものを描いているのと違うところだ。

その次女が、是非とも私を誘って行きたいというバーがあるというのだが、お酒もやめて久しいし、夜は8時に床に就く生活をしている私にとって、下北沢のバーなど海の向こうの国の話ほどにリアリティーを感じない。まあ、行くことはないだろうと思っていた。

ところが、その日はまず長女の家に行って、そうそう、長女の住む高円寺の阿波踊りを見に行った日のことだ。その後、下北沢の次女の家に泊まることにして連れていかれたのが件(くだん)のバーだ。

バー・オーナー夫妻の絵

細い階段を昇っていくと、暗い店内には音楽が流れて数人の客がいた。壁一面にびっしりと並んでいるのはレコード。それこそ、昭和の時代にタイムスリップしたかのような…。私はウーロン茶を注文して、出されたポップコーンをつまんだ。それから、次女はオーナー夫妻に私を紹介した。

それから、「実は2人の絵を描いてほしいの」と耳打ちをして、オーナー夫妻をテーブルに座らせて写真を撮り始めた。聞けば、何十年もこの店をやってきたのだけれども、建物の建て直しに伴って、来年には店をたたむのだそうだ。次女はその思い出を私の絵にして、オーナー夫妻にプレゼントしたいというのだ。

「好きな曲を言ってごらん。すぐにオーナーが棚から引っ張り出して、かけてくれるから。どこにだれの何の曲があるか、オーナーの頭の中には全部あるの…」。次女にそう言われたものの、それほどのマニアでもない私は、おびただしい数のレコードを前にして咄嗟(とっさ)には何も出てこなかった。

しばらくして、次女から画像が届いた。それは件のバーの店内に以前次女に渡した、私の作品展のハガキが飾られている様子が映っていた。「オーナー、飾ってくれてるよ」というメッセージが添えられていた。もう少し後で描こうと思っていたのだけれど、オーナー夫妻の絵を描き始めることにした。今度次女に会うときに渡せるように。多分、私はバーに行くことはないだろうけど。(画家)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

1コメント

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

1 Comment
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img
spot_img

最近のコメント

最新記事

ハクレンの大量遡上始まる 桜川 つくば 松塚の堰 

15日朝、桜川のつくば市松塚の堰に、ハクレンが大量に遡上したのを桜川漁業協同組合(鈴木清次組合長)が確認した。大量遡上が確認されたのは今年初めて。夕方には、朝より数は半分ほど減ったものの多くのハクレンが見られ、背びれを水面にのぞかせて泳ぐ様子に、川辺で農作業をしていた近隣住民も驚いていた。 ハクレンジャンプと言われる集団跳躍行動はまだ見られず、何匹かが堰を上ろうとジャンプする様子が観察された。堰を上りきれず浅瀬にジャンプし、岸に打ち上げられたハクレンも5、6匹見られた。 年々遡上する数が増加 桜川漁協の鈴木組合長によると、ハクレンが桜川に大量に遡上し始めたのは3年前からで、年々遡上する数が増えている。「雨が降ったので桜川が増水し産卵のために上ってきた。今日は松塚の堰はそれほど水が多くない。松塚の堰を上ったハクレンは(さらに上流の)田土部堰(たどべぜき)が閉まっているのでこれ以上は行けず、ここにとどまったり戻ったりしながらジャンプしている。前は利根川のハクレンジャンプが有名だったが、最近は桜川でも見られるようになった」と話す。 20時間で稚魚になり霞ケ浦へ 同日、松塚の堰近くでは、1匹のメスに数匹のオスが寄り添って産卵と受精が行われた。卵は下流に流されながら、20時間ほどでふ化して稚魚になるという。鈴木組合長は「3年前には霞ケ浦のワカサギ漁の網にハクレンの稚魚が大量に入り、ハクレンとワカサギをより分けるのが大変だったという話を聞いている」と話し、「去年も今年もワカサギはあまり獲れないと聞く。このままではハクレンばっかりになってしまう」と懸念する。 ハクレンは中国原産の外来魚で、成魚の体長が100センチ、重さが10キロほどになる大型魚。アオコなどの植物プランクトンを餌としている。産卵期が5月から7月で、この時期に集団跳躍をする習性がある。産卵は、産卵日の前日や前々日が雨天で、川の水量が増加した早朝から行われる傾向があるという。 昨年5月には田土部堰でハクレンの大量酸欠死が発見され(23年5月27日付)、6月初めには台風の影響による増水で大量の死骸が霞ケ浦に流される事態が発生した(23年6月2日付)。(田中めぐみ) https://youtu.be/mEdw6IGQxy4

県内の生産は低位推移 消費は緩やかに回復【筑波総研リポート】

筑波銀行グループの筑波総研が15日まとめた「茨城県経済の現状と展望」によると、2月の鉱工業指数(2020年=100、季節調整済み)は106.9と、前月比3.5%上昇したものの、低位の水準で推移している。中国経済の減速などを要因に、自動車や建設機械、半導体関連の生産が減少しており、生産活動には弱さが見られるという。 3月の大型家電店販売は大幅増 個人消費は一部に弱さが見られるものの、全体としては緩やかに回復している。3月の販売額を分野別に見ると、百貨店・スーパーは前年同月比5.2%、家電大型専門店は同23.0%、ドラッグストアは同5.6%、ホームセンターは同5.7%の各プラス。コンビニエンスストアは同0.2%マイナスだった。 筑波総研の担当者は「県内のサービス業の声を聞くと、物価上昇で節約志向がうかがえる一方で、宿泊や小売りは良くなっており、個人消費は緩やかに回復している」という。 空港国内旅客はコロナ前水準に 茨城空港の3月の国内旅客数(定期便)は6万650人になり、コロナ禍前の水準に戻っている。しかし、国際線旅客数(定期便)は2081人と回復が遅れている。「台北便は昨年から運行を再開したが、上海便は5月末まで運休、西安便も10月下旬まで運休が続く」ことがその背景。 コロナ禍でクルーズ船の寄港がほぼストップしていたが、県の誘致戦略もあり、今年度は国内船・外国船とも寄港数が増えそうだ。筑波総研が作成した寄港一覧によると、11隻が予定されている。(岩田大志)

5年ぶり200人規模に 18日 恒例の田植祭 JICA筑波

20年以上続く恒例行事の田植祭が18日、国際協力機構(JICA)筑波センター(つくば市高野台)内の水田で催される。当日は、JICA筑波で農業技術などを学ぶアフリカ、アジア、中南米からの研修員と地域住民が力を合わせて苗を手植えする。コロナ禍で2020年から2年間は開催が見送られ、昨年までは人数を制限して開催だった。今年は5年ぶりにコロナ前同様の200人規模での開催となる。 当日は「ネリカ米」を使ったエスニック料理の試食会もある。ネリカ米はアフリカの食糧事情改善を目的に開発され、JICAも品種開発と普及を支援する。 「日本は途上国を一方的に支援しているわけではなく、開発途上国に支えられている」とJICA筑波連携推進課の西岡美紀さん(38)はいう。食料自給率は4割未満。さらに近年は労働力人口の減少から、途上国とのつながりなしでは人手不足も解消できなくなりつつある。「田植祭の目的はJICA筑波の活動を知ってもらうと共に、交流を通じて、地域の方に日本と世界のつながりや途上国への関心を持ってもらうこと」だと話す。 つくばだからこそできる国際協力 全国に15カ所あるJICAの国内拠点の中でも特に農業に特化する筑波には、各国の政府機関や自治体から来る年間700人余りの研修員が、それぞれの国が抱える課題を解決しようとやってくる。各国の主要な作物について、品質や収量の向上、病害虫対策など、研修員は自国が直面する課題に対する実験計画を立て、日本の指導員と取り組み、最後にテクニカルレポートを作り上げて帰国する。 研修業務を担当する須田麻依子さん(45)は、近隣にある多様な専門機関と連携できるのがJICA筑波の特色だと話す。「つくばには、近距離に専門機関がたくさんある。気候変動を例にすると、農業分野でどう適応していくかを学びたい方がいれば農研機構の専門家にレクチャーしてもらうし、森林分野の問題では森林総研に最新の研究について講義をお願いする。筑波大の先生から海岸地域の気候変動対策に関するお話を伺い実際に施設を見せてもらうこともある。バスで15分も行けば専門家から直接レクチャーが受けられるのは国内でここだけ。オンラインで海外や日本全国の専門家と接続することは可能だが研修でしか学べないことがたくさんある」と話す。 道の駅を自国でオープン 近年は農業県である茨城の特色を生かし、自治体や農家を交えて多角的な視点で農作物に付加価値を付け、市場を広げる研修にも力を入れている。道の駅のアイデアを自国に持ち帰り、実際にオープンさせた例もあるという。 2020年からは研修員と、途上国での活動に関心を持つ企業や大学を結びつけるためのプロジェクト「農業共創ハブ」をスタートさせた。「企業にとっては現地の人の声を聞ける機会になり、研修員にとっても企業から話を聞くことは非常に有益。JICA筑波がハブとなり、日本の民間企業や大学と途上国のつながりが生まれるよう立ち上げた」と連携推進課の西岡さんは言う。 18日の田植祭は、交流を楽しみにする地元住民らから多数の応募があり、予定より早く募集を締め切った。 「アフリカでも若者の農業離れが進んでいると聞く。田植えは研修員にとっても日本人との貴重な交流の場。日本語を勉強している人もおり、地域の日本人との交流の機会になってよかったと言っている。双方向の文化の理解につなげたい」と西岡さんは企画への想いを語る。(柴田大輔) ◆田植祭は5月18日(土)午前10時40分から12時30分まで。場所はJICA筑波圃場内にらう水田で開催する。秋には収穫祭が予定され、例年9月に研修員と稲刈りを楽しみエスニック料理を食する。詳細はJICA筑波ホームページへ。

すてきな「つくばローズガーデン」《ご近所スケッチ》10

【コラム・川浪せつ子】「せめて連休中に咲いてほしいなぁ」と思っていたら、温暖化のせいか、バラの開花時期が数年前から半月ほど早まりました。今回のテーマは「なぜ人は絵を描くのか?」です。 2年少し前、実母が没した年齢を超えました。いつ「お空」に行くか、わからない。じゃあ、仕事を辞めて本当に好きなことをしよう。絵を描くことに集中しよう、という思いはよかったのですが…。 人生いつまでたっても、たくさん初体験。今年は3カ月半の間に5回も絵の展示。必死でお絵かき。 そうしたら、首から肩の痛みが取れない。絵だけの生活になって、ひどいギックリ腰を2回。展示会前日の夜まで描いているため、膀胱炎にも。疲労から?仕事では締め切り前に徹夜もして、どうにか乗り越えてきましたが…。 24時間絵のことばかり考えて 年齢を重ねたからということだけではなく、24時間絵のことばかり考えて…。仕事はルーチンワーク。自分の絵は新規の世界。全力で毎日走っているような。 仕事をしていると通帳の残高の数字は大きくなるけど、お絵かき(趣味)は残高が減るの…。でも止められないのはなぜ? そんな中、絵の仲間がたくさんできました。結論は出せないけど、「山になぜ登る」というのに似ているかもしれません。 登ったその風景を見たいから。そして自分の登ってきた足跡を振り返ることができるのは「生きてきた」証拠。そんなことで病み付きになるのかもしれません。 今回の「つくばローズガーデン」(つくば市古来)は本当にステキ! 上の絵も下の絵も10年前くらいに描いたものです。(イラストレーター)