ナノサイエンス分野の研究で優れた業績を挙げた国内研究者を顕彰する江崎玲於奈賞の審査会が20日、つくば市内で開かれ、第20回受賞者に理化学研究所(埼玉県和光市)の十倉好紀(とくら・よしのり)CEMSセンター長(69)と于秀珍(う・しゅうしん)CEMSチームリーダー(58)の両氏が選ばれた。ナノスケール(1ナノメートルは10億分の1メートル) で起こるスピン渦結晶の直接観察とその物性の研究が対象となった。
茨城県科学技術振興財団(つくば市、江崎玲於奈理事長)が、ノーベル賞受賞の白川英樹、野依良治、小林誠各氏らを審査委員に選出する。1回目から関彰商事(つくば市・筑西市、関正樹社長)が協賛し、受賞者に副賞1000万円を贈っている。審査委員長の江崎理事長は「20回目にして初めて女性の研究者を選べたことは意義深い。新しい科学に向けてのプログレス(進歩)に貢献する重要な研究だ」と語った。
対象となったスピン渦の結晶配列は「スキルミオン」と呼ばれる。ナノスケールの電子スピンの渦である原子核を構成する核子のトポロジカルな渦からなる準粒子であり、その電子スピンは少しずつ方向を変えながら、渦状に配列していることが理論的に予言されていた。次世代の低消費電力・高密度・不揮発性メモリ素子の担体の一つとして期待されているが、その応用には至っていない。
両氏は2010年、磁気顕微鏡により渦構造を実空間で直接観察することに成功した。その後、15年にはスピン渦結晶が準安定で、広い温度範囲で存在し、敏感な電気応答を示すことや、室温以上でも安定に存在し、超低電流で駆動できることなどを発見した。それによりスピン渦結晶を支配する基本原理と物性を解明し、エレクトロニクスを拡張する次世代の電子工学「スピントロニクス」への応用など可能性を開く成果という。
今回は19件の推薦のなかから選ばれた。審査員の白川氏によれば「たぐいまれな独創力で十倉氏が研究分野を切り開き、卓越した技術で電子顕微鏡を読み取った于氏による二人三脚のすばらしい成果」としている。
つくば賞は筑波大の江面氏
県内において科学技術に関する研究に携わり、顕著な研究成果を収めた研究者を顕彰し、研究者の創造的な研究活動を奨励する「つくば賞」には筑波大学生命環境系、江面浩(えづら・ひろし)教授(63)が選ばれた。
江面氏は、トマトの突然変異体集団を構築することで、世界最大規模のリソース基盤を構築した。さらにその活用によってトマトの日持ち性、高糖度性、機能性成分に関わる遺伝子の機能解明に貢献した。それらの知見とゲノム編集技術を融合することにより、健康機能性成分であるガンマ アミノ酪酸(GABA)を高蓄積するトマトを開発して2021年から市場化、一般流通食品としては世界第1号の事例となった。
このほか、つくば奨励賞は以下の各氏に贈られる。(敬称略)
◆つくば奨励賞(実用化研究部門)
今村岳(物質・材料研究機構主任研究員)、南皓輔(同主任研究員)、吉川元起(同グループリーダー)
<研究主題>膜型表面応力センサ(MSS) を用いた嗅覚センサの総合的研究・開発と社会実装
◆つくば奨励賞(若手研究者部門)
内田健一(物質・材料研究機構上席グループリーダー)
<研究主題>スピンカロリトロニクスに関する基盤研究
(相澤冬樹)