食欲の秋―、農研機構食品研究部門(つくば市、髙橋清也所長)は11月8日、食品研究成果展示会を開く。メーンの公開講演会では「おいしさ分析の新展開」をテーマの一つに掲げた。「おいしさ」は科学的にどう研究するのか? 分析法の「官能評価」はどうやるのか? 同研究部門食品流通・安全研究領域の中野優子さん、早川文代さんに話を聞いた。
中野さんが中心になって開発したのは、動物性・植物性のとんこつ(風)スープに適用可能な官能評価法。ラーメン店やカップめんですっかり定番化した「とんこつ味」だが、一方で宗教上や健康上の理由から動物性を避け、植物性で代替する食品の需要も募っている。しかし、動物性食品と比べて「物足りない」という評価が根強くあって、食品製油メーカーとの共同研究が2021年にスタートした。
研究で用いた「官能評価」は、目、鼻、舌など人間の感覚器官を使って、素材の性質を評価する。「おいしさ」は極めて主観的で抽象的な感想だが、これを定性的・定量的にとらえて第三者と共有できる形式にしないと科学的分析にならない。
食品研究部門には、一定以上の味覚や嗅覚の感度をもつ「パネリスト」と呼ばれる評価者がいる。現在15人程度が委嘱され、訓練を受けている。今回は7人のパネリストが、市販の33種類の動物性・植物性とんこつ(風)スープについて、実際ににおいを嗅いだり食べたりして、その特徴を言葉で表現した。
ここで得られた289語の言葉を整理し、動物性・植物性スープの特徴を表現する33語の評価用語を決定した。パネリストはこの用語に基づいて「塩味」や「うま味」などを0点から150点の間で評価し定量化するのだそうだ。
これらのデータについて、今回は「主成分分析」(PCA)という統計解析方法が用いられた。中野さんによれば、「あらかじめ縦、横の座標軸を設けて二次元的に置いていくのではなく、(三次元的な)数値をマッピングしたうえで分散が最大となる軸を新たに見つけ出す」と説明される。多くの変数を持つデータの統計的処理でよく用いられる手法で、再現性も高いという早川さんは、官能評価に関わる語彙(ごい)を扱う専門家だ。
今回でいえば、データの特徴を表す第1主成分、第2主成分の軸によって動物性食品らしさ、植物性食品らしさが浮かび上がる。これに動物性のとんこつスープ(5種)、植物性のとんこつ(風)スープ(7種)をあてはめた結果が下図。スープの香りや味の特徴を視覚的に表している。

研究ではさらにとんこつスープの 「動物っぽさ(動物感)」に着目し、一般消費者34人の参加を得て、22種類のスープの動物感の強さを評価してもらった。その結果、動物感の強さの評価には個人差が大きいものの、動物感のとらえ方には複数のパターンがあると分かった。動物性のとんこつスープからは、油脂感、獣臭、しょうゆの香りなどの言葉で表現される特徴が感じられ、一方、植物性のとんこつ風スープからは、ショウガの風味、野菜の風味、鶏がらスープの香りなどの言葉で表現される特徴が感じられた。
こうした分析から、植物性のとんこつ風スープの「物足りなさ」を埋める要素の提示は出来たという。スープの特徴と、消費者が実際に食べた時に感じる動物感やおいしさを、個人差を考慮しながら照らし合わせることで、とんこつ(風)スープの味や香りをどのように制御すれば消費者一人ひとりにより高い満足感を与えられるかが具体的に分かるようになるとしている。(相澤冬樹)
◆11月8日につくば国際会議場(つくば市竹園)で開く研究成果展示会では、「おいしさ分析の新展開」が公開講演会冒頭のテーマとなる。早川さんが「官能評価用語に関する最近の話題」を、中野さんが「個体差や個人差を考慮した官能評価の取り組み」を、それぞれテーマに発表するなど4講演が予定されている。詳しくはこちらまで。