【コラム・田口哲郎】
前略
デジタルネイティブという言葉はずいぶん定着しました。生まれたときにはすでにIT革命が起こっており、インターネットやパソコンが当たり前にある環境で育った世代を指します。私はデジタルネイティブではありません。インターネットやパソコンが普及して、日常生活で使いはじめたのは、大学生のときです。
大学で課されるレポートはワープロソフトで作成し、プリントアウトして提出していました。インターネットがめずらしく、ネットサーフィンといういろいろなホームページを閲覧する遊びがはやっていて、テレホーダイを利用して何時間もつぶしていました。
いま思うと、なぜあんなに夢中になれたのか不思議です。電子メールにもいちいち感動して、新しいコミュニケーションツールを楽しんで使っていました。そう考えると、情報収集の方法も変わりました。昔はホームページや掲示板(BBS)などでしたが、いまは旧ツイッターなどSNSが主流です。
ITツールが生活を変えた
ふとインターネット、パソコン、携帯電話がなかった時代に思いをはせました。よく引き合いに出されるのは、待ち合わせ方法の変化です。携帯電話がないころは、待ち合わせ場所は細かく決めなければいけませんでした。たとえば、新宿駅東口改札出て、右に何番目の柱のところ、などと。いまはだいたいの場所を決めて、そこに着いたら電話なりメッセージ送信すれば会えます。
ITツールは便利なのですが、便利ゆえに使いこなし方が問われることになります。そうなると、より効率的にとかはやくとか、目的をすばやく的確にこなすことが求められるようになっている気がします。
自分をかえりみても、たとえば出かけるにしても、ただぶらぶらするのではなく、目的を設定して、順路を調べて、よりはやく、より安く移動しようとしてしまいます。こうなりますと、散歩好きを自称する身としてはよくありません。なにもITツールが悪いのではないのです。
要は使い方です。そして使い方を考えるとややこしいので、いっそ使わないことが大切なのかもしれません。このごろ、わけもなく、デジタル社会になる前の世の中にノスタルジーを感じます。ごきげんよう。
草々
(散歩好きの文明批評家)