伊東誠一さん(仮名、56歳)は、つくば市の公立中学校に今春設置された不登校生徒の居場所「校内フリースクール」の支援員を務める。県南地域の小中学校の教員として教壇に立ち、教頭も務めた。担当教科は理科。思うところがあって今春で学校教員を退いた。その後は放課後児童クラブの指導員になろうかと考えたが、周囲の勧めがあって校内フリースクールの支援員に就いた。
伊東さんが担当する生徒は5人で、このうち3人が常時通学している。登下校の時間や学習する内容、過ごし方は生徒たちの自由意志に任せている。校内フリースクールができたことで、それまで通所していた民間フリースクールを辞めてきた生徒もいるという。
着任し、子どもたちと過ごして分かったことがある。自分の意見をうまく言語化できない子どもたちだからこそ、その話に耳を傾けることの大切さだ。通常の教室では授業中に教員が学習事項を板書して生徒がそれをノートに書き写す。教員にとってはクラス全員が書き写すことは当たり前だが、書き写すことが苦手な子どもは「何が嫌なのか」を聞いてもらえず、級友からは怠けていると見られて学校が嫌いになることがある。「過去の私は子どもの意見をじっくり聞かず、自分主導で子どもたちに勉強を強制していた」と振り返る。
「待つ」ことの大切さにも気づいた。問題が解けない子どもがいたら、考えるヒントを示して答えを考えだすのをじっと待つ。自分は勉強ができないと思い込んでいる子どもほど、答えを見つけ出せたことで達成感を得て自己肯定感が高まる。同時に「考える力」をつけることになる。忍耐強く待てるようになった伊東さんだが、教えることが当たり前の教員にとって待つより教えたくなってしまう。ベテラン教員になるほど待つのは難しいのではないかと伊東さんはいう。
さらに、人と関わるのが苦手な子どもを孤立させないためにどうしたらいいかと考えたが、取り越し苦労だった。女子生徒2人が意気投合して楽しそうに過ごしている。分かり合える友だちがいて安心できる人間関係があれば、学校は楽しくなる。生きづらさを抱えている子どもたちにとって、校内フリースクールは育ちと学びの選択肢の一つとして必要と伊東さんは言い切る。
中学の教員だったころ、高校受験を控えた中3の2学期から不登校になった生徒の担任をしていたことがある。不登校の理由を聞いたがつかみどころがなく、家庭訪問や保護者を交えて話をしたが良い結果は得られなかった。生徒は卒業証書を校長室で受け取り、私立高校に進んだ。
今、校内フリースクールを担当したことで子どもたちの学校に行けない悩みや苦しさが分かるようになり、あの時、生徒をもっと見てやっていれば悩んでいたことに気が付いたと悔いる。「子どもの気持ちを表面的にしか分かってなかった。今の私なら、子どもの視点に立ってもっと出来ることがあった」と話した。
支援員の役割は、子どもたちがストレスから解放される居心地の良い場所づくりだと思っているという。登校してくる子どもたちを笑顔で迎え、話を聞いたり、分からないところがあれば一緒に勉強する。子どもたちにとって「いつも校内フリースクールにいるおじさんでいい」と話す。そんな伊東さんに生徒が掛けた言葉が「先生、来年も担任でいてくれるよね」。子どもたちが望むなら支援員を続けていきたいと伊東さんはいう。
子どもの第3の居場所として全国に広がってきたフリースクールは全国的にはNPOなど民間団体が運営しているものが多い。民間のフリースクールは所在地が遠かったり、月謝など経済的負担で利用できる児童生徒はごく少数に限られるケースもある。一方、自治体が公立学校の空き教室を活用して整備した校内フリースクールは自宅から通学でき、授業料がかからない上に給食も食べることができる。また専任職員(支援員)が中核となって児童生徒の状況や学習内容を把握し、個々に寄り添った支援も期待できる。(橋立多美)
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