国土地理院(つくば市北郷)内の地図と測量の科学館で「関東大震災100年ー地図に残る地殻変動と被災状況」と題した企画展が開かれ、同院の前身の参謀本部陸地測量部の調査隊員が震災直後に被災地を調査し、被災状況を書き込んだ地図や、地殻変動を測量した記録などが展示されている。
隊員94人が現地調査
被災状況が書き込まれた地図は「震災地応急測図原図」で、1万分の1から20万分の1までの複製地図56点が一堂に展示され、手に取って見ることができる。震災直後の9月6日から15日まで、当時の調査隊員94人が東京、千葉、神奈川などの被災地を歩いて調査し、地図上に、家屋の倒壊や焼失の状況、鉄道や道路、橋などの損壊状況など被災状況を書き込んだ。赤色の字で「家屋ことごとく倒壊し現存してあるもの郡役所のほか数戸に過ぎず」などの記載がある。実物も7点ほどが開催期間中、代わる代わる展示されている。
一方、軍関係施設などが立地する区域の地図は当時、外に持ち出したり公開するのを禁じられ、被災調査で使用することができなかった。調査隊員は、持ち出し禁止区域の海岸線や河川、鉄道、主要道路、集落や地名を和紙に写し取り、「写図」を作って現地調査で使用した。会場では被災状況が書き込まれた「写図」も展示されている。
延長460キロを測量
地殻変動を測量した記録は、余震が沈静化してきた9月26日から房総半島と三浦半島を、10月下旬から東京付近の水準点を測量した。水準点231点、延長460キロを測量し、水準点の沈下や隆起の概要をまとめた1924年3月の報告書「関東地方激震後における震災地一等水準路線の変動について」が初めて公開されている。東京湾の入り口、神奈川県三浦市の油壷験潮場は震災で約1.4メートル隆起し、機器が破損したため潮位を測定できなかった。企画展では油壷験潮場の当時の潮位の変化がパネルで初公開され、機器が損傷し、記録が空白となっていることが分かる。さらに三角点808点の当時の測量記録をもとに、震災前と後で地形がどのように変化したかを現代の地図上に記した三角点の水平位置移動図も初公開されている。
ほかに、被災直後の東京の街の様子などを撮影した絵はがき約50点や、災害に対する現在の取り組みなども紹介されている。絵はがきは、当時の人々が、震災の様子を遠くの親戚などに送って知らせたものだと言う。
同館で関東大震災をテーマに企画展が開かれるのは震災85年の2008年に次いで2回目。
同院広報広聴室の塩見和弘室長は「企画展では、当時の水準測量と三角測量の実際の記録を元にして、関東大震災でどんな地殻変動が起こったのかを見ることができる。潮位の観測も初公開され、当時どのように潮位が変化したかが分かる。当時の測量の成果や我々の先輩が後輩に残した記録を現代の地図上に落とし込んで、どのような地殻変動が起こったかということも見ることができる。当時の実際の地図のレプリカから、災害の状況を手に取って見ることもできるので、防災意識の醸成や防災に役立てていただければ」と話す。(鈴木宏子)
◆同展は10月1日(日)まで。入場無料。開館時間は午前9時30分~午後4時30分。月曜休館。地図と測量の科学館は、つくば市北郷1、国土地理院構内。詳しくは電話029-864-1872。