つくば市小野崎の料亭「つくば山水亭」で17日、創業35周年を記念して無声映画の上映会が行われた。活動写真弁士の第一人者で、今年デビュー50周年を迎える澤登翠(さわと・みどり)さんが、阪東妻三郎主演の時代劇「雄呂血(おろち)」の映像に、七色の声でセリフを当てて命を吹きこんだ。
上映は2部に分けて行われ、第1部と第2部合わせておよそ300人の予約があったという。「つくば山水亭」を運営するサンスイグループの東郷治久社長は、活動写真弁士の文化を保存したいと無声映画の上映を企画。上映前に「文化庁の支援がありこの公演を開催できた。我々の企画を選んでいただいてありがたい」とあいさつした。

ホテルやレストラン、教育事業など運営するサンスイグループは1946年に映画館の経営を始め、水海道(常総市)の「宝来館」のほか県内16カ所で映画館を開いていた歴史がある。3代目社長である東郷さんは小学生のころ、父が運営する映画館の楽屋で生活していたと話す。「スクリーンの裏に住んでいて夏は暑くて大変だったが、冬は少し暖かかった」と振り返る。映画館に特別な思いがあるという。
活動写真弁士の澤登さんはスクリーン横でななめに構え、スクリーンと観客席を交互に見ながら巧みに声色を変えてナレーションと複数の役柄を演じ分けた。バックミュージックは湯浅ジョウイチさんがギターと三味線で、鈴木真紀子さんがフルートで演奏し、それぞれの場面を盛り上げた。

第1部ではチャールズ・チャップリン主演の「チャップリンのスケート」(1916年公開)と「雄呂血」(1925年公開)、第2部では喜劇「ロイドの要心無用」(1923年公開)と小津安二郎監督、高田稔主演の「大学は出たけれど」(1929年公開)が上映された。「雄呂血」と「ロイドの要心無用」は澤登さんが、「チャップリンのスケート」と「大学は出たけれど」は山城秀之さんが声を当てた。
土浦市から来場し、第1部を鑑賞した男性は「新鮮だった。雄呂血は悪い者が残り、勧善懲悪の話ではない。矛盾を訴える力がある作品と感じた」と話した。同じく第1部を鑑賞したつくば市在住の女性は「今では録音して流すものを生で演じる弁士さんと演奏家の方の力が大きい。表現者の感性で解釈したものを鑑賞者が受け取っている。こういう表現の仕方はこの先もつなげないといけない」と話した。(田中めぐみ)