茨城県南地域を中心に毎週土曜日、新聞折り込みで届けられたフリーペーパー「常陽リビング」が17日付をもって休刊する。発行元の常陽リビング社(土浦市桜ケ丘町、米山典克社長)が3日付、10日付の紙面などで公表した。1977年4月8日の創刊以来、つくばや土浦など13市町村に地域の生活情報を伝えてきた。
常陽リビングは土浦市に拠点を置いた地方紙、常陽新聞(2013年廃刊)が創刊した「常陽リビングニュース」が始まり。1985年8月、常陽新聞社が常陽リビングを京葉ガス(千葉県市川市)に譲渡し、京葉ガスのグループ会社となった。
1980年代後半から2010年ごろの紙面構成は平均28ページと他のフリーペーパーの追従を許さないページ数と情報量を誇った。隆盛を極めた98年から08年までの11年間は、不動産広告や求人広告などの掲載申し込みが引きも切らず、従業員は平均36ページ、年に数回は40ページもの紙面作りに追われた。ピーク時の2007年ごろは約25万部を発行し、年間約10億円の売り上げがあった。
コロナ禍に紙媒体の活路見出せず
現在の発行部数は約22万部。広告媒体が紙からインターネットに移行し、コロナ禍で収入が減少、さらに円安などによる紙やインク代の高騰が見込まれることから休刊を決めたという。45年の歴史に幕を下ろす。
スマホとインターネットの普及が状況を変えた。2018年ごろから、大きな割合を占めていた不動産広告がインターネット広告にとって代わり、広告収入が落ち込み始めた。加えてコロナ禍により20年から飲食店や旅行関係の広告が減少した。
行動制限が緩和された秋以降も、職場などの飲み会や宴会が復活しないなどコロナ前と行動様式が変わり、飲食店などの広告収入は元に戻らなかった。広告の減少に伴って8~12ページの紙面となり収入の減少に歯止めがかからなかった。昨年度は数千万円の赤字だったという。

同社は、リビング紙発行のほかに、就職支援サービス、不動産事業、結婚相談事業、カルチャー教室の主催・運営など経営を多角化し、さらに固定費を削減しようと2、3年前から希望退職者を募ってきたが、広告減少をカバーするのは難しかった。第三者への営業譲渡などで事業継続が望めないかと奔走したが「紙媒体だと黒字化できるイメージが付かない」など、見つからなかったという。広告主などには9月に、休刊を知らせた。
米山社長(60)は「苦渋の決断だった」と語る。「45年発行してきて知名度もあり、読者からもクライアントからも『毎週楽しみです』という声をいただいてきた。常陽リビングは地域に浸透した情報紙だと実感しているが、スマホを使いこなす若者にはあまり知られていない。コロナ禍でデジタル化はますます広がり、紙媒体は厳しい。この間、赤字が続き、何とか続けようと模索してきたが、いったん立ち止まろうとなった。今後、印刷用紙の大幅値上げが確実視されて経営改善策を見出すのは困難で、休刊し、従業員に退職金を支払うという結論を出した」
現在の従業員数は20人。一部は他事業や清算事業のため3月まで仕事を続けるが、他事業の従事者や経理担当者を除いて31日で退職となる。同社は今後1年間は再就職の支援を行うとしている。(橋立多美)