月曜日, 11月 25, 2024
ホームつくば旧郵便局舎と巡り合う【北条宿でコーヒーブレイク】2

旧郵便局舎と巡り合う【北条宿でコーヒーブレイク】2

つくば市北条は、正しくは宿場町ではない。農村の様々ななりわいが集積した在郷町(ざいごうまち)と称するのがふさわしい。街道(県道138号石岡つくば線)に面して発展した歴史を持つ街並みには、いくつかの登録有形文化財指定を受けた近代建築が残る。

旧常陸北条郵便局もそのひとつ。切妻造妻入と切妻屋根のポーチを持つ、洋風外観でありながら和風建築との融合を果たした局舎と住宅だ。

登録文化財の旧郵便局舎が利活用される店舗

1933年に建てられ、1962年まで使われていたこの建物は、2008年に喫茶店として蘇った。その名も「カフェ ポステン」。スウェーデンの言葉で郵便局を意味する。

思い付きだったコーヒー修行

店主の椎名祐一さん(51)が1人で切り盛りする。椎名さんとコーヒーとの出合いは、数奇な縁が下地となっている。

「学生のとき、就職活動中に見た学内掲示板の『ブラジルへの交換留学』がきっかけでした。これを主催していた団体は今はもうありませんが、留学と就職目標の両方に選び、先方からは『どちらかに絞って』と言われて卒業後の留学となりました。1995年から1年間、ブラジルのコーヒー企業で豆の卸業や直営店での接客など、いろいろな経験をさせていただきました」

この時点ではまだ、喫茶店を営む考えも構想もなかった。サッカーとサンバとコーヒーの国に、たまたま出かけていったらラテンの陽気さが肌に合った、という程度だったそうだ。

帰国後しばらくして、つくば市古来の「珈琲倶楽部なかやま」に就職した。本格的なコーヒー修行はここから始まる。

「亡くなられたオーナーからはコーヒー屋の全てをたたき込まれました。もうひとつ、栃木県の黒磯(那須塩原市)にある『ショウゾウ コーヒー』さんのスタイルに憧れまして、ラテンどころか日本の昭和の風合いを感じさせる場所で、その当時の時間にも浸ることのできる店舗を描いたんです」

ブラジル発・なかやま仕込みのブレンド

古民家に住み物件探し

90年代、つくば市にも古民家活用の波が訪れていた。椎名さん自身も北条の古民家を借りて住み始め、仕事の合間に物件を探しながら喫茶店の構想準備を進め、旧常陸北条郵便局舎と巡り合った。

「構想はできていましたが、資金繰りや資機材調達や局舎の借り受けに何も後ろ盾が無くて、なんとかなるだろうと見切り発車です。建物の持ち主には幾度も説明に伺い、内装を店舗化することも含めて理解をいただきました。知人友人の手を借りて改装を自分自身で手がけ、店員も雇用できないから1人で営業です」

オープンは2008年11月。手仕事で作られた器、地産の食材を使った献立、建物に存在する古さの活用ー。来客はほとんど無かったという。

「当時は宣伝もせず取材も受けなかったですから、PR効果以前の話ですが、それで良かったんです。何でも自分でやらなければ気が済まないけれど、1人でできることは限られています。お客さんと対話する時間がまた楽しいですから、大繁盛よりものんびりと店を構えていたい」

ランチの一つ、ベーコンレタスサンド

今は、地元の来客、口コミ情報を頼りに訪ねてくる人々で、週末は混雑するほどになっている。「ポステン」と名付けたのは郵便局舎を母体としているから当たり前なのだが、スウェーデン語にした由来を尋ねると、市内でガラス工芸を営む妻が、北欧でガラス細工の修行をしてきたからだという。店内にあるグラス類は妻の手仕事によるものだ。

「夏の間、クリームソーダを用意したら大人は懐かしんでくれて、若い人たちにはインスタ映えするかわいい素材だと、全く異なる感想ながら皆さん楽しんでくれました。コーヒーもランチも同様で、ここに来て自分だけの時間を手に入れていただければいいなあと思っています」

近傍遠方から人々が通ってくる場所。椎名さんの人生にとって、カフェは「山を一つ登って降りてきた」ようなものだという。次の山に登る計画は既に始まっている。「やりたいことは沢山あります。北条で次の山を目指したいし、さらに年を経たら椎名家ゆかりの地に赴いて、また別の山に挑みたいですね」(鴨志田隆之)

続く

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

1コメント

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

1 Comment
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img
spot_img

最近のコメント

最新記事

eBookでも英語著作を刊行しました《文京町便り》34

【コラム・原田博夫】先月、学術出版社スプリンガー社から、編者の1人として英語著作を刊行しました。「Jaeyeol Yee, Hiroo Harada, and Masayuki Kanai, eds., Social Well-Being, Development, and Multiple Modernities in Asia, Springer Nature Singapore, October 2024」 です。 訳せば、ジョエル・イー(国立ソウル大学<社会学>教授)、原田博夫(専修大学名誉教授)、金井雅之(専修大学人間科学部教授)編著の『アジアにおける社会的安寧(ソーシャル・ウェルビーイング)、発展、多様な近代化』です。執筆者は6カ国(日本、韓国、モンゴル、台湾、インドネシア、フィリピン)29名に上ったため、全18章、総ページ数342に及びました。値段はハードカバー版が1万2154円、eBook(電子書籍)版は9723円です。 このテーマでの研究者ネットワークは、文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業に採択された専修大学の社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)研究センター(2009~13年度)およびソーシャル・ウェルビーイング研究センター(2014~18年度)から始まりました(いずれも研究代表者は私)。 その後は、日本学術振興会の研究拠点形成事業(若手研究者ワークショップ)<2022~24年度、研究代表者は嶋根克己・専修大学人間科学部教授>などが引き継いでくれました。とりわけ、ソーシャル・ウェルビーイング研究センター(2014~18年度)当時、アジア7カ国での(ほぼ共通の)サーベイ調査を実施したことが、今回の刊行につながりました。 当時の研究コンソーシアムで、今回の執筆陣に諸般の事情で加われなかったのはバンコク・チュラロンコン大学とハノイ・ベトナム社会科学院の2チームですが、モンゴル研究所(IRIM)のメンバーは途中からの参加にもかかわらず、意欲的に貢献してくれました。この大所帯を取りまとめ進行管理してくれたのは、事務局長役の金井雅之さんです。彼の献身ぶりには頭が下がりました。 eBookの利便性と値引き率 ハードカバー版とeBook版を同時に刊行して気づいたのは、eBook版の値段の高さです。実は、Kindle版は定価(市場価格)の5割以下ではないかと、漠然と思っていました。それがこの場合は、2割引きなのです。改めてAmazonなどでチェックすると、eBook版が利用できる場合でも、多くは1割引き程度です。現状では、中古本より割高です。 eBook版のメリットは、現時点では書籍管理・スペースの節約、検索の利便性の2点ですが、既存出版社や書店の意向・利害関係もあり、紙媒体の相対的な優位性はまだ維持されているようです。しかし近い将来、eBookの利便性(紙媒体の学術書では不可欠だった「索引」を不要にするなど)と値引き率はさらに高まる気がします。(専修大学名誉教授) <参考>アマゾン掲載場所はこちら

台湾提灯加わりバージョンアップ 水郷桜イルミネーション点灯 土浦

土浦の冬の風物詩、水郷桜イルミネーション(同推進委員会主催)が23日、霞ケ浦湖畔の同市大岩田、霞ケ浦総合公園オランダ型風車前広場で始まった。青、赤、ピンク、緑、黄色などのLED約21万7000球が点灯し、土浦の花火、桜、霞ケ浦、ハス田などがイルミネーションで浮かび上がった。 高さ25メートル、直径20メートルの巨大な風車の羽根が冬の夜空に回転する「風車イルミネーション」や、土浦の花火を表現した「花火イルミネーション」が点灯した。今年は台湾の台南市と友好交流協定を締結したことを記念して、新たに色鮮やかな「台湾提灯」が加わった。来年1月13日まで点灯する。 点灯式では同推進委員会共同代表の広瀬英敏さんが「水郷桜イルミネーションは約210社という企業の協賛のおかげで開催できていることに感謝したい。寒い中にもたくさんの人に集まってもらい大変喜んでいる」などと話した。安藤真理子市長は「今年は台南市との友好交流協定を記念しての台湾提灯が加わり、よりバージョンアップした催しになった」などとあいさつした。 霞ケ浦高校チアダンス部のパフォーマンスや土浦第二小学校合唱団のコーラス、日本総合伝統芸能集団「喜楽座」の演奏などが披露された。 点灯式にはたくさんの市民らが訪れ、点灯の瞬間を待った。午後5時20分、10、9,8、7…とカウントダウンの合図で点灯すると、会場から大きな歓声が上がり、湖上から花火も打ちあがった。市民らは光のトンネルに入ったり、写真を撮ったりして華やかなイルミネーションを楽しんでいた。 夫婦で訪れた市内の40代の鈴木孝宗さんは「毎年楽しみに来ている。今年は花火が見られなかったので、本日(点灯の瞬間を)見られてうれしい。今後もずっと続けてほしい」と語った。(榎田智司) ◆水郷桜イルミネーションは、土浦市大岩田145、霞ケ浦総合公園オランダ型風車広場で来年1月13日(月)までの午後5~9時に点灯する。入場無料。期間中のイベントとして▷台湾フェスティバルが12月7日(土)と8日(日)の午後4時~9時まで開かれ、台湾フード販売、台湾雑貨販売、トークショー、サックス演奏、抽選会などが催される▷ほしぞらマルシェは12月14日(土)、15日(日)、21日(土)、22日(日)の午後4時~9時まで催され、キッチンカーや市内飲食店の出店、野菜販売、雑貨販売などが行われる。問い合わせは電話029-823-4811(土浦市産業文化事業団) https://youtu.be/Pz85d5occsI

新同居人とレコード鑑賞《続・平熱日記》170

【コラム・斉藤裕之】さて話は前回の続き。2階の部屋を片付けていたら、何とも不思議なことに数枚の中古LPレコードが出てきた。誰のものかわからない。値札は全て100円。それほど詳しくない私には、ただ1枚、エルトン・ジョンのものだけがわかった。 10月吉日、この部屋に住むことになった新住人がやって来た。事情はいずれ話すとして、私のパートナーなどではない。しかるにこの新同居人、正確には同居人達の部屋には何とレコードプレイヤーがあるではないか。片づけが一段落したところで、早速この謎のレコードを聴いてみようということになった。 ジャンルはバラバラ。カントリーありロックあり。さて次はどんな曲が始まるやら。共通して言えるのは、大方80年代のものだということだ。それなりのグループであるらしい。こういうとき、ネットは有り難い。検索すると全部ちゃんと出てくる。数枚は結構いい値段がついていることもわかった。しかし、誰がいつ? なぞのレコード。 ちょっと残念だったのは、片方のスピーカーから音が出ないこと。スピーカーのせいではなさそうだし、どこか断線しているというのも考えにくい。すると新同居人の1人が「ハリかも?」と。レコード針のせいでステレオにならないことがあるというのだ。 翌日、近くの中古ハード機器専門店でレコード針を買ってきた新同居人が針を交換。すると、両方のスピーカーから音が! ついでに買ってきたという数枚のレコードも、ターンテーブルへ。秋の夜は立体感のあるアナログな音に包まれた。 心躍るクリスマスソング およそ40年前。「レコードはなくなってCDというものになるらし~で」と、当時映像関係の専門学校に通っていた弟が放った言葉。そんな馬鹿な!と思ったが、それから間もなくしてレコードは姿を消した。 今やCDも見かけなくなり、ネット配信という時代。最近履歴書というものを書いたことがないのだが、恐らく「趣味、特技」なんていう項目はないんだろうな。とりあえず、差し障りない「読書」や「レコード鑑賞」なんていうのが定番だったような。私は読書もしないし、レコードなんて買うお金もなかったので、どちらも書いたことはないけど。 当時のレコードは子供の小遣いじゃ買えない値段だったけれど、今はプレミアがついているものを除けば中古は安い。今こそ「趣味、レコード鑑賞」か。 翌日、新同居人のひとりが年末に向けてクリスマスソングのレコードが欲しいというので、近くの中古レコード店へ。何とか1枚を見つけて帰宅。夜のとばりとともに針を落とす。60を過ぎて初めて聞くバイナルレコードのクリスマスソングに、不覚にも心躍る私であった。後日、レコードは長女が学生時代に殺風景な部屋の飾りにとジャケ買いしたものとわかった。(画家) 

給食のパンに異物混入 つくば市並木小

つくば市は22日、市立並木小学校で同日出された学校給食のパンに異物が混入していたと発表した。 市教育局健康教育課によると、同日午後0時10分ごろ、児童が給食のロールパンを配膳中、ビニール袋に入ったパンの表面にアルミホイルのような長さ1.5ミリくらいの細長いものが付着しているのを見つけた。パンはニンジンを練り込んだ国産小麦の「ユメシホウニンジンパン」で、1人1個出された。異物は児童の口には入っていないという。 県外のパン製造業者が調理し、学校に直接搬入された。同じパンはこの日、市内の幼稚園2園と小学校4校、中学校1校、義務教育学校1校の8校に計4461食分が提供された。 異物混入を受け同課は、同じパンの提供を受けた8校の園児や児童生徒にパンを食べるのを中止するよう連絡したが、すでに食べてしまった園児や児童生徒もいたという。22日現時点で健康被害の報告はない。 混入の原因について現在、給食センター所長がパン製造業者に対し、混入の経路を解明するよう指示し調査を実施している。混入経路や原因などは現時点で不明としている。