茨城大学農学部(阿見町、宮口右二学部長)は4日、実証実験中の大規模圃(ほ)場で収穫された新米(あきたこまち)23.5トンを、県内で子ども食堂などの支援活動に取り組む団体に寄贈した。機械メーカーのコマツ(本社・東京、小川啓之社長)と共同で、20年から農業用ブルドーザーを用いた乾田直播(ちょくは)水稲栽培の研究を進めており、年々収量をあげている。収穫米は販売できないことから、食の支援を必要とする家庭や学生へ届けるために活動する団体に寄贈しており、3年目となる今回、この数量も増やされた。
4日は宮口学部長、コマツ本社から坂井睦哉グリーン事業推進部長らが出席して寄贈式が行われた。Ami seed(アミシード、阿見町)の清水直子代表、県生活協同組合連合会(水戸市)の井坂寛専務理事が寄贈の目録を受け取った。Ami seedは茨城NPOセンター・コモンズ(水戸市)により運営されている子ども食堂サポートセンターいばらきを、県生協連は茨城大学生協を含む協同組合ネットいばらきを、それぞれ代表する形で受け取った。
ブルドーザーで耕す乾田直播水稲栽培
共同研究は今年、稲敷市内にある5.6ヘクタールの大規模圃場で行われた。乾田直播水稲栽培は、水田にイネの苗を植えるのではなく、イネの種子を直接土に播くスタイルで行われる。稲作の労力とコストを削減させ、休耕地活用の促進や地域農業の持続可能性につながることが期待されている。コマツの開発した農業用ブルドーザーは、最新のデジタル技術を駆使することによる高精度な均平作業と、後部に装着した農業用アタッチメントによる耕起作業や種まき作業が可能という。
直播栽培はこれまでにもさまざまに試みられたが容易に普及しなかった。農学部の黒田久雄教授は「とにかく土地を真っ平らにするのが大事な要件」といい、トラクターや田植機ではなくブルドーザーの出番となった。
水田の均平精度を高めることにより、給排水を低減した環境配慮型の新たな灌漑(かんがい)システムである額縁明渠(がくぶちめいきょ=あぜに沿う水路)法の実証を進めた。この給水法により、明渠への給水箇所が1カ所で済むようになり、水管理が容易になっただけでなく、ポンプに関わる電力は従来の節電型の水田と比較し、約70%もの節電効果を得られたという。
本年度の収量はヘクタール当たり4.2トン、昨年の3.66トンから大幅に伸ばした。浅木直美准教授によれば「コシヒカリを栽培した昨年は倒伏米(稲が田に倒れてしまう現象)が多かった。あきたこまちでは倒伏がほとんどなかった」のが増収につながったそう。通常の水田ではヘクタール当たり5トンの収量が見込めるといい、採算的にもこのレベルに近づいてきた。
今回の寄贈分は合計23.5トン。昨年の16.8トンを大きく上回った。
子ども食堂とフードパントリーを運営するAmi seedの清水直子代表は「子ども7人に1人の貧困率と言われるが実態は6人に1人になっている。食に興味を持てない子供たちが増えている。お米っておいしいんだよというところから味あわせてあげたい」と謝辞を述べた。コモンズによれば「子ども食堂サポートセンターで把握している県内の子ども食堂は昨年の122件からことし10月時点で144件に増えた。寄贈は大変ありがたい。コロナ禍だけで増えているのではなく、この先も長い支援が必要」(コーディネーターの伊東輝美さん)としている。(相澤冬樹)