土浦市在住の写真家、石川多依子さんの写真展「モノクロ語り・土浦」が13日から、同市大和町の土浦市民ギャラリーで開催されている。2007年から現在までの約15年間、街の変遷を撮り続けた写真の中から、57枚を厳選して展示している。
街角での気付きが源泉
昨年1月、大町の通りに昔からある茶舗で、午前中の暖かい日差しに包まれて店番をする、1人と1匹の姿を収めた作品が展示されている。「若いころから知っている人で、懐かしいと思って話し掛けて撮らせてもらった。おじさんが優しい目で猫を見ていて、猫はどーんと構えている。その関係がいい」と石川さん。
2015年2月の厳寒の日、当時はまだアーケードがあった中央大通り商店街で、うつむき加減で歩いていた女性を振り向きざまに撮った作品もある。「すごく寒そうな感じで、マフラーの流れ方や手にしたビニール袋も雰囲気がある。駅へ向かうバスもちょうど来て、いい感じに撮れた」
生活の臭いがする写真
「人がいない風景ではなく、ちょっとでも人が入っている、生活の臭いがする写真が撮りたい」と石川さんは言う。はしごを使って物干し台へ登る主婦や、道端で遊ぶ子どもの姿などもある。ほんの少し前まで身近に見られた光景だ。「こういう写真にはモノクロの方が似合う。見ていても物語性があり、想像力が働く気がする」
今展に向けて、写真をプリントしながら思ったのは、やっぱり土浦は古い街だなということ。駅の周辺や表通り沿いなどは再開発が進んだが、一歩奥へ入ると路地や裏町が残っており、そうガラッとは変わっていない。ただそれでも、少し前まであった塀がなくなったり、家が空き地になっていたりなど、歩く度に小さな変化がそこかしこで見られるという。
タイの少数民族など撮影
石川さんは1945年水戸市生まれ。中学2年のとき父から一眼レフをもらい、写真の撮り方を教わった。高校3年で県美術展に初入選。大学入学から就職、結婚を経て一時写真から離れたが、40歳のころ家族と共に両親の住む土浦に戻り、再び精力的に撮り始めた。
インドや中東の国々を巡ったほか、タイでは少数民族の子どもたちと出会い、2000年にチェンライ市で教育支援活動をするNGO「さくらプロジェクト」に参加。北部山岳地帯の暮らしや、民族衣装の美しさなどを、現地に滞在しながらカメラに収めてきた。写真は都内のギャラリーや、水戸の常陽芸文センターでの個展などで発表。京都写真美術館のサイトでは、エチオピアで撮影した「サバンナの民・ボラナ」が公開されている。
歩いて初めて目が向く
こうした活動の合い間を縫って、07年ごろから土浦の街を撮り歩くようになった。「車では通ることがなかった路地や裏町の面白さに、歩くようになって初めて気付いた。しかもカメラを下げていると、普段は素通りしていたところにもあちこち目が向く。古い家屋のたたずまいや、当たり前の日々を営む人たちの姿に、懐かしさや温かみを感じてきた」
コロナ禍以降は、健康のためという目的も加わった。「何もしないでいると家に閉じこもりきりになってしまう。自分の中では遊びの写真だが、この辺で一度まとめてもいいかなと思った」と開催意図。15年余りの移りゆく街の姿が、ほぼ撮影年代順に並んでいる。(池田充雄)
◆石川多依子写真展「モノクロ語り・土浦」は13日(火)から19日(月・祝)まで、土浦市大和町1-1アルカス土浦1階 土浦市民ギャラリーで開催。入場無料。開館時間は午前10時~午後5時(最終日は午後4時まで)。問い合わせは電話029-846-2950(同ギャラリー事務室)