【鈴木宏子】一人暮らしをする障害者や高齢者を応援する福祉アパート「あんしん荘」が土浦市真鍋と阿見町岡崎にある。大家で、土浦市の会社員、鈴木一也さん(35)が夫婦で運営する。
保証人がいなくても入居でき、敷金、礼金は不要。冷蔵庫、洗濯機、IH(電磁加熱)調理器、エアコン、照明などの家電付きだ。バリアフリーではないが、玄関やトイレなどに、入居者に合った高さに無料で手すりを付けてくれる。
入居時に、行政や民間の福祉・介護関係者、大家の鈴木さんと3者で面談する。介護や家事、緊急時の対応、経済面など、その人に合った在宅支援体制を3者で考え、週3、4日だれかが部屋を訪ねてくる体制をつくる。
土浦と阿見に1棟ずつある福祉アパートはいずれも2階建てで、各部屋の間取りは1DK、家賃は月3万4000円から3万7000円。2カ所とも車がなくても歩いて行ける場所にスーパーやコンビニがあり、バス停が近い。
土浦は築30年、阿見は築25年。日本政策金融公庫から事業用融資を受けて鈴木さんが購入し、改修して2016年から福祉アパートとして運営を始めた。現在、健常者も含め40歳代から70歳代が入居している。購入時、いずれも半分以上が空き室だったが、10室ある阿見は満室、8室の土浦は7室が埋まり2月中に満室になる。
■150カ所訪ね構想話す
不動産会社も大家も、高齢者や障害者の入居に消極的であることに疑問をもったことがきっかけになった。
九州地方で高齢者を積極的に受け入れていた大家から福祉アパートの経営を勉強。人口減少社会となり、地域によってはアパートに空室が目立っていること、一方でこれまで不動産業界があまり目を向けていなかった高齢者や障害者がアパートで自立生活を送りたいと望んでいることなどを知った。
福祉アパートの運営構想を自分なりに作り、2015年6月から、仕事が休みの土日曜などに、土浦、つくば周辺の福祉施設などを1カ所ずつ訪ねて回り、自身の構想を話し、需要があるかを探った。訪ねた施設は1年間で150カ所以上になる。
■リスクを一つひとつ除去
不動産賃貸業界では高齢者や障害者の入居に対して、室内での転倒によるけが、火災、犯罪被害、家賃滞納、孤独死などのリスクが懸念されている。
鈴木さんはリスクを一つひとつ検討し対応策を考えた。
室内で転んでけがをしないように必要な場所に手すりをつける▽段差がある場所に蛍光シールを張る▽ガラスが割れてけがをしないように飛散防止フィルムを張る▽火災が起きないようガスコンロや石油ストーブでなくIH調理器やエアコンをあらかじめ設置する▽玄関の閉め忘れがないよう鍵はオートロックとする―などだ。
さらに3者面談で支援体制をつくるにあたっては、鈴木さんが独自に考案した用紙に健康状態や介護サービスの利用状況、経済状況、緊急時の連絡先などを記入してもらう。「仮に孤独死が発生したとしても保証会社の保険を活用できる」と鈴木さん。「リスクが誇張され過ぎている。介護・福祉事業者の支援や保険でかなり軽減できることを大家さん自身がもっと知るべき」と話す。一方で「不動産業界と無縁だったからこそ挑戦できた」ともいう。
鈴木さんは「支援者と連携することで障害者や高齢者が一人暮らしできるまちをつくることは、住みやすいまちをつくることになり、まちおこしにもなっていくと思う。空き家に悩んでいる大家さんはたくさんいる。福祉アパート運営のノウハウをつくって、必要な人に必要な情報を届けられたら」と話す。
問い合わせは鈴木一也さん(電話090・8330・4545、Eメール;ea10679@gmail.com)