産業技術総合研究所(AIST、つくば市東)は3日、千葉県九十九里浜沿岸で歴史上知られていない津波の痕跡を発見し、それが房総半島沖で発生した巨大地震によるものであると発表した。活断層・火山研究部門の澤井祐紀上級主任研究員、行谷佑一主任研究員らが、カナダ・ サイモンフレザー大学ら複数の研究機関との共同研究で明らかにした。
かつて陸地と海の境にあり現在は陸化した「海岸低地」と呼ばれる地形の地下堆積物は、過去数千年間の環境変動を記録し、数百~数千年に一度という低頻度の巨大津波の履歴を調べるのに適している。
一方、地震計や精密な地形計測など近年の機器観測は小さな断層のずれまで測定できるが、それらの機器ができる以前の断層のずれ(地震)は観測することができない。さらに歴史記録は人がいた場所しか記録されず、今回のような1000年前は泥炭地だったところは記録に残っていなかった。
産総研はこれまでに、過去に発生した津波の痕跡を調べる地質調査を日本各地で行ってきた。今回、海岸低地だった千葉県九十九里浜地域での掘削調査により、過去の津波の痕跡である津波堆積物を2層発見し、古い方の津波堆積物(砂層B)は約1000年前に堆積した、歴史上知られていない津波の痕跡であることが分かった。
太平洋プレートが沈み込むタイプは記録なし
九十九里浜地域は太平洋プレート、大陸プレート、フィリピン海プレートが1箇所で接するプレートの三重点に隣接しており、各プレート境界で形成されている日本海溝、相模トラフ、伊豆・小笠原海溝の周辺で発生する地震・津波の脅威にさらされている。
今回発見した津波がどのようなメカニズムで起こったのか明らかにするために、相模トラフ(モデル1~4)、日本海溝(モデル5~8)、フィリピン海プレートに対して太平洋プレートが沈み込む境界(モデル9,10)などを検討したところ、モデル10の領域での滑り(地震)が九十九里浜地域の浸水に大きな役割を果たしたと考えられた。
房総半島沖で発生する地震について、これまでは主に相模トラフと日本海溝で発生する地震の繰り返しが検討されており、フィリピン海プレートに対して太平洋プレートが沈み込むタイプの地震はこれまでに記録されていなかったことから、検討されてこなかった。
シミュレーションの結果では、砂層Bを堆積させた津波の震源はマグニチュード8クラスと大きかったと想定された。今回の発見は、フィリピン海プレートに対して太平洋プレートが沈み込むタイプの地震についても、さらなる検討が必要であることを示している。(如月啓)