耐震基準満たさず建て替え急務
耐震基準を満たしていないとして、つくば市は、23カ所の公立保育所のうち4割に当たる9カ所を、民営化や統廃合などして建て替えるなどの方針を検討している。対象は上境、稲岡、上ノ室、上広岡、上横場、高見原、城山、岩崎、小田保育所の9カ所。耐震性が低い順に、3年後の2024年度から26年度までに順次、現在地とは別の場所に建て替えなどする。
検討中の整備方針案によると、9保育所のうち▽上境、稲岡、上横場の3保育所は民間に移管し別の場所に民間保育園を新設する▽距離が近い上ノ室と上広岡、高見原と城山の4保育所は2園に統廃合し、民間に移管して、別の場所に民間保育園を新設する▽岩崎保育所は、公立のまま岩崎幼稚園跡地に建て替え、茎崎地区に公立1カ所を残す▽小田保育所は国指定史跡エリアにあり建て替えができないとして、別の場所に建て替えるのではなく、休止も視野に今後のあり方を検討するーとしている。市こども部によると、8月中にも市の方針を決定する。
具体的な整備方針は、各保育所ごとに個別の計画を立てて決める。民間保育園を建てる場所については基本的に移管先の民間が探す。現在地から何キロ以内などの規定は現時点で設けないという。
9公立保育所に勤務する保育士などの職員は現在、正規が99人、非正規が152人。民営化後は正規は他の公立保育所に異動する。非正規のうち希望者は移管先の私立保育園で勤務できるよう、市として移管先に配慮を求めるという。
9保育所の跡地利用は未定で、今後、市全体で検討していくことになるとしている。
民間参入さらに増やす
市内には現在、公立保育所が23カ所、民間保育園が70カ所ある。同市は2048年まで人口が増えると推計されており、待機児童対策は最優先課題の一つとなっている。市は第2期子ども・子育てプランに基づいて20—25年度まで毎年、定員90人規模の民間保育園を3園、待機児童が多い0~2歳が対象の小規模保育施設を4園増やす計画を立てている。20年度は計画を超える民間保育園5園、認定こども園1園、小規模保育施設4園を新設し、定員を736人を増やすなど待機児童解消に努めた。今年4月時点の同市の待機児童数は2人と、長年続いた待機児童県内ワースト1を返上した。
今回新たに公立保育所の民営化が加わることで、民間保育所の参入をさらに増やすことになる。
市の建設費負担4分の1に
公立保育所をめぐっては、2017年度の耐震診断で耐震基準を満たしていない保育所が9カ所あった。9カ所いずれも同じ年度に応急的な修繕を実施したが、基準は満たしてないままだ。9カ所を含め築40年を経過している施設が半数を超えていることなどから、市は昨年3月、公立保育所の施設改善基本方針を策定した。耐震基準を満たしてない9カ所については、公立のまま建て替える方法や、社会福祉法人や学校法人に建設・運営を移管する方法を検討するとしていた。
検討の結果、公立のまま建て替えると建設費が全額、市の負担となるなど、財政的面からも整備に年数がかかってしまうとして、民間移管を柱とする今回の整備方針案をまとめた。90人規模の保育所を新設する場合、市が公立のまま建て替えると3億円程度が全額、市の負担となるが、民間が新設する場合、国の補助金や事業者負担があるため市の負担は4分の1の7000万円程度になるなどと説明している。
残りの公立保育所14カ所は現時点で、公立のまま長寿命化のための大規模修繕を実施する方針だ。一方、市として今後、公立保育所の在り方をどうしていくかについては、9保育所の民間移管や建て替えのめどが立ったら改めて方針を策定したいとしている。
公立と私立の違いの一つに、障害児保育の受け入れ人数がある。施設改善基本方針によると、19年時点で公立はすべての園で障害児を受け入れたが、民間で受け入れたのは44%だった。今年度は、公立で186人、民間で164人を受け入れており、1園当たりの受け入れ人数は公立は平均8.08人、私立は平均2.41人と3倍以上の開きがある。市は子どもの障害の程度に応じて、保育士を増やすための補助を民間にも実施しているが、開きは埋まっていない。
「上横場は公立のまま」
9公立保育所を民間委託、統廃合するなどの整備方針について市は、7月16、17日に公立保育所の保育士などを対象に説明会を開催し、7月29日から8月2日に9保育所の保護者のみを対象に説明会を開催すた。8月5日には市子ども・子育て会議で意見を求めた。
市によると、保育士の説明会では「子供のことを思うと一緒に(移管先の民間保育園に)移った方がいい」「公立で働きたい」などの意見が出て賛否が分かれた。保護者説明会では「希望する保育園に入れるのか」「移行する保育園はどんな園になるのか」などの意見が出たという。
一方、子ども・子育て会議では、上横場保育所を民営化にすると、人口が急増するつくばエクスプレス沿線のみどりの地区などから入所する公立が少なくなってしまうことなどから①上横場保育所は公立として残すことも含めて慎重に検討する②民間移管の場合の保護者負担や職員の働き方に配慮する③移管先の民間保育所を公募する場合、実績を幅広く検討するーなどの意見が出された。(鈴木宏子)
5日の第2回子ども・子育て会議で示された9保育所の整備方針とスケジュール案は以下の通り。
▽上境保育所(定員60人、園児数42人)=2023年度末で公立を廃止し、24年度から地区内の別の場所に民間保育園を開設する。移管先は22年度に公募する。
▽稲岡保育所(60人、55人)=24年度末で公立を廃止し、25年度から地区内の別の場所に民間保育所を開設する。移管先は23年度に公募する。
▽上ノ室保育所(60人、44人)と上広岡保育所(70人、51人)は24年度末で公立を廃止し、25年度から地区内の別の場所に、2保育所を統合した民間保育園を開設する。移管先は23年度に公募する。
▽上横場保育所(135人、94人)は25年度末で公立を廃止し、旧谷田部庁舎跡地も視野に26年度から民間保育所を開設する。移管先は24年度に公募する。
▽高見原保育所(60人、63人)と城山保育所(60人、52人)は25年度末で公立を廃止し、26年度から2保育所を統合した民間保育所を高崎幼稚園跡に新設する。移管先は24年度に公募する。
▽岩崎保育所(60人、61人)は公立のまま、岩崎幼稚園跡地に移設し、24年度から新園舎でスタートする。
▽小田保育所(60人、29人)は国指定史跡エリアにあり現在地に建て替えできないため、休止を含め今後の在り方について検討する。