【山口和紀】新型コロナ拡大の影響で入学式が中止となってしまった筑波大学(つくば市天久保)で、「春を取り戻す」ためのイベントを企画している学生がいる。水谷奈都乃さん(教育学類1年)、昨年4月から中止になった入学式に代わるイベントを学生有志で開催できないか模索してきた。
入学直後から企画のプロジェクト
昨年、筑波大学は新型コロナウイルスの拡大の影響を受けて、入学式や新入生歓迎祭、宿舎祭などのイベントをすべてに中止した。水谷さんが「春を取り戻す」ためのプロジェクトを企画したのは「ここで何もしなかったら、将来いまの状況を思い出したときにきっと後悔する」という思いがあったからだ。
プロジェクトを企画したのは入学してすぐの4月だったが、水谷さん自身も、大変な状況にあった。入学をきっかけに埼玉県からつくばに引っ越すつもりだったものの、当時大学からは「新入生は実家に留まるように」との指示が出ていたため断念せざるを得なかった。授業や新歓もすべてオンラインで行われ、所属する教育学類を除いて、交流関係はほとんど広がらなかったという。
企画がスタートした当初、水谷さんは「学生有志で入学式の代わりになる大きなイベントを行いたい」と考えていた。しかし、感染拡大はその後も続き、状況も悪化していった。「去年の7月くらいまでは夏を超えたらできるかも、とは思っていた。でも、夏休みに入ってから、自分の思った通りのことはできないと分かった」と振り返る。
水谷さんは、入学式の代わりになることはできなかったとしても「将来振り返ったときに後悔しないようなことがやりたい」考えた。
そこで、プロジェクトのメンバーと「そもそも自分たちが入学式などのイベントに求めていたものは何だったのか」を話し合うことにした。「大学生になったという区切りや記録が欲しい」「同じ大学に入った仲間との一体感のようなものがないのが寂しい」「同じ場所、同じ時間に人が集まらずとも何か出来ることがあるのではないか」という気持ちがあると分かった。
外出自粛要請に一度はとん挫
今年度の筑波大学では、春学期だけでなく秋学期もほとんどの授業がオンラインで行われた。毎年新入生が屋台を出店し盛り上がる春の宿舎祭も、さらには来場者が3万人を超える秋の学園祭も中止になった。サークル活動も、一部の体育会系の部活動を除いて、対面の活動は自粛が要請されている。「大学生になった実感」が欲しかった。
しかし、大人数で集まることは依然としてできそうに無い。そこで仲間たちと知恵を絞った。出てきたアイデアは「バラバラの時間に時間差でいろんな人が来て一つの作品を作る」というものだった。同時に、入学式のような背景を「立て看板」を使って再現することで、「春を取り戻す」ための写真撮影スポットを作るという企画も行うことになった。アイデアは固まり、準備も着々と進んだ。
水谷さんたちはイベントの実施を12月1日から2週間に決め、場所はカスミ筑波大学店で行うことにした。着々と用意を進め、感染対策を含め、ほとんどの準備を終わらせた。
イベント前日に、最終仕上げをしようと大学へ行った。しかし、プロジェクトを支援している大学の組織T-ACTの担当教員から「外出自粛要請が出てしまったから、イベントは延期の必要性がある」という話があった。そのままイベントは延期になってしまい、年も明けた。
水谷さんは「(イベントと外出自粛要請が)ドンピシャで重なるのはすごいと思った。今も外出自粛要請が出ているから、イベントが開催できるのは2月になるか3月になるか。どうなるか分からない」と語る。
感染対策に翻弄されるプロジェクトだが、得たものも多い。水谷さんは「これまでの取り組みを通じて、たくさんの学びや経験を得られた。時間をかけて準備してきたことがどのような形になるのか楽しみ」と語った。