【橋立多美】つくば・市民ネットワークは、子育て中の疑問や悩みを話し合う「子ども部会カフェ」を開いている。この場で、クラスで使いまわす給食当番の白衣の強烈なにおいが話題に上り、2人の母親が子どもの化学物質過敏症の深刻さが周囲に伝わらない苦しい胸の内を明かした。
白衣の匂いで食べられない
白衣の強い匂いで給食が食べられない児童がいる。子どもが持ち帰った白衣は洗濯しても匂いは残り、アイロンをかけたら匂いが立ち上って気分が悪くなったという話もあった。
子どもたちへの影響が懸念され、昨年6月の定例議会で同ネットワークの小森谷佐弥香議員が市の対策を質問した。市は「学校及び幼稚園、保育所の統一した取り組みは行っていないが、強い香りの製品の使用について保護者に配慮をお願いしていく」と回答した。
今年3月、市教育局健康教育課が幼稚園と小・中学校の保護者全員に「強い香りに困っているお子さんがいます」とタイトルを付けたチラシを配付。5月には新入園児と新1年生の保護者を対象にチラシを配った。小中学校向けのチラシには、白衣と貸し出し用ジャージの洗濯に注意を促す一文が書き加えられている。
同課は今後もチラシを配布し保護者への周知を図っていくとする。チラシ配布後、同課に「(香害で)困っていたので助かりました」と電話がかかってきたそうだ。
元凶は揮発性有機化学物質
「香り製品で健康を損ねる香害の元凶は揮発性有機化学物質」と話すのは、NPO「化学物質による大気汚染から健康を守る会」理事の津谷裕子さん(89)。土浦市在住の津谷さんは元産業技術総合研究所の研究者。米国製の測定器を輸入し、科学的視点で環境調査と市民への啓発活動に取り組んでいる。
揮発性有機化合物の一種、イソシアネートは毒性の指摘もある。欧米では製品に含まれるイソシアネートの規制が厳しいが、日本では野放しになっていると津谷さんはいう。多種類のイソシアネートが塗料や接着剤、道路舗装、家具や衣服の防水加工など身近なところで使用されている。
津谷さんによると、柔軟剤や洗濯洗剤などの香りを持続させるためにイソシアネートで出来たマイクロカプセルが使われ、光と熱、摩擦でカプセルが破れ、香りが徐々に出る仕組みだという。ところが破れたカプセルからは中身の香りだけでなく、有害物質のイソシアネートが飛散して空気を汚染するという。
津谷さんは1996年、東京・杉並の自宅近くに建設された不燃ごみを圧縮・積み替えする中継施設からの空気汚染で、ある日突然、化学物質過敏症を発症した。化学物質が付着した家財全てを捨てて土浦に転居した。67歳だった。
「化学物質過敏症は誰もに起こり得る可能性がある。人ごとと思わず、使っている香り製品などが、自分や子どもの体に悪影響を及ぼすかもしれないとの認識に立って買い物をすべき」と警鐘を鳴らす。
これからの季節は制汗スプレーを使う児童生徒が増える。津谷さんは「クーラーで教室の窓を締め切ることが多くなる。制汗剤のにおいで、化学物質に敏感な子どもは苦しいのでは」と心配する。
◆同会がこのほどイソシアネートの調査結果をまとめた冊子「絵でとく 日本におけるイソシアネートのすべて-健康被害、どこにある?どんなふうに?」を発刊。希望者に無料で配布している。先着順。問い合わせはメールvoc@kxe.biglobe.ne.jp(同NPO)。