【コラム・川上美智子】2023年の日本人の平均寿命は、男性81.09歳、女性87.14歳と、この数年は鈍化傾向にあるが、生命表によれば女性の半数(50.1%)は90歳まで、4人に1人(25.5%)は95歳まで生きる時代である。男性は、それぞれ26%と9.2%と、女性に比べれば短命であるが、戦後間もない頃の90歳まで生きる女性が2%(男性0.9%)、95歳まで生きる女性が0.2%(男性0.1%)の数値と比較すると、日本はしっかりと長寿社会を築いてきた。
誰も自分の余命がどれくらいになるかは実際のところは分からないが、寿命が長くなった分、退職後の時間が長くなり、その後の人生、セカンドライフをどう生きるかが大きな課題となっている。
厚生労働省は、労働力不足の対策として、高齢者雇用安定法を制定し、70歳までの定年の引き上げ、継続雇用、定年制の廃止などを努力義務とし、暮らしの安定、健康や生きがいのために長く働くことを奨励している。実際、2023年時点の70~74歳の労働力人口比率をみると34.5%、75歳以上では11.5%まで伸びていて、生涯現役で働く人が増えている。私も、70歳で大学退職後の9年間のうち8年間は保育園の仕事に関わり、その後も会社のアドバイザーとして週3日勤務し、それが生きがいとなっている。
また、この17年間、週半日は陶芸の作品作りに充てている。老後の趣味づくりの一つとして始めたものであったが、陶芸に特化していったのは、多くの不思議なご縁があったからである。
まず、結婚相手が大学時代、京都の陶芸家・叶光夫宅に下宿していて、陶芸の手ほどきを少し受けていたことである。私と同郷の淡路島出身の叶光夫先生は、日展審査委員として皇居などにも作品が所蔵されている著名な作家で、お見合い時に個展に行きお目にかかった。また、夫は日立製作所の大甕(おおみか)陶苑の竹内彰さんとも懇意にしていて何回か窯をお尋ねし、私も抹茶椀(わん)作りなどした。
また、結婚した年(1970年)の笠間陶器市に出かけ、一番気に入り購入したコーヒーカップ5客セットが、後に私の師になる荒田耕治先生作であった。就職した茨城キリスト教短期大学では、所属していた家政科の1975年頃の改革で造形分野を拡張し、陶芸窯を設置して渡辺信雄氏を非常勤講師に招聘(しょうへい)した。そこで学生と一緒に作品作りを行い、日立市美術展覧会にも出展した。
今年初めて新槐樹社展に応募
その後、1993年策定の「茨城県笠間芸術の森公園展示施設構想」の策定委員として笠間陶芸美術館の構想にも関わらせていただいた。これもご縁であるが、当時、県職員として笠間芸術の森の誘致に骨を折られ、現在城里町副町長の藤田悟史さんが今年の陶炎祭で鶯釉(うぐいすゆう)の壺(つぼ)をお持ち帰り下さった。
2008年に茨城で開催された第23回国民文化祭では、初めて荒田耕治先生とご一緒に3年間企画委員を務め、それがきっかけで先生からご指導いただくことになり今に至っている。
茨城県芸術祭美術展覧会、水戸市芸術祭美術展覧会での陶歴17年目にして友人に勧められ、今年初めて全国展の新槐樹社(しんかいじゅしゃ)展に応募し新人賞や会友推挙をいただき、国立新美術館や京セラ美術館などに作品が展示された。この秋の展覧会は、何と、私の父が昭和期に勤務していた日窒鉱業株式会社のビルの跡地に建てられた銀座洋協ホールで開催されることになり、またまたご縁を感じている。亡くなった父にどの作品を見てもらおうかと楽しみである。
残された人生、子どもたちに反対されるも、陶芸を続けてみようと、つい先月、庭に電気窯を設置し、陶芸の道を進む覚悟を決めたところである。(茨城キリスト教大学名誉教授、関彰商事株式会社アドバイザー)