【コラム・先﨑千尋】「カラスの鳴かぬ日はあっても」という言葉がある。今なら、米に関する話題がテレビ、新聞などで報道されない日はない。「米5キロ最高値4220円。昨年の2倍。16週連続値上げ。崩壊寸前食料安保」など。
予想されたことだが、最近は米泥棒があちこちに出没しているというニュースもある。5月6日付の日本農業新聞は、今年になって千葉、茨城の両県で約30件、8000キロが農家の倉庫から盗まれた、と報じている。テレビでも、被害に遭った農家の声を伝えている。我が家でも被害に遭ったらと考えるとゾッとする。あちこちのフードバンクや子ども食堂も困っているようだ。
5反百姓の我が家は、例年どおり5月の連休に田植えをした。兄弟や子供たちが集まり、1年で一番にぎやかだ。孫が田植え機を操縦するようになった。終わったあとは「さなぶり」。皆が持ち寄った手作りの料理とビールがうまい。飲み始める前に「今年も米を食べられるゾ」と宣言する。
スーパーでの店頭価格が昨年の倍になったからといって、農家は潤っているのか。米作りを止めた農家が作付けを再開するか。「上がった」と言っても、やっと30年前の価格に戻っただけ。その間、資材代は大幅に上がっている。
2022年までは「米農家の時給は10円」と言われていた。昨年それが約100円に上がった。それでもパートの時給の1割にすぎない。リタイアした人たちは高齢化で、もう米作りはできない。米で生活できるためには最低でも20~30ヘクタールは必要だし、トラクターやコンバイン、乾燥施設などの設備投資は数千万円単位になる。
「令和の米騒動」と言うが…
それにしても、米5キロ4000円台の価格は高過ぎる。生産者は「高ければ高いほどいい」などとは考えていない。大部分の農家は「米の再生産ができる正当な農業労働評価をしてほしい」と願っている。大部分の農家は出来秋に米を出荷しているので、もうかることはないのだ。
では、米の適正な小売価格はどれくらいなのだろうか。
農水省の調査では、昨年の米の相対取引価格は60キロ2万4383円だ。この価格で米卸が玄米を仕入れ、スーパーなどの小売が店頭で売る場合の「適正価格」は、卸・小売りのコスト(精米、流通など)に平均利潤を加えて、5キロ換算で2918円になる。政府備蓄米の全農から卸への販売価格は60キロ2万2402円。店頭価格が5キロで3000円より少し高いくらいになっているので、その程度が「適正価格」と言えよう。誰かが不当に儲けている。
1918年に起きた米騒動は、富山県魚津町の女たちが米の投機による米価の高騰に対して暴動を起こしたのが始まりで、全国に波及した。米倉の打ち壊しが行われ、最後は軍隊まで出動した。今回の米価の急騰は「令和の米騒動」と言われているが、騒動はどこでも起きていない。
どうして「騒動」と言うのだろうか? 米を始めとする物価高に労働組合はだんまりを決め込み、自分の給料が上がればいいと言うだけ。生活苦に声を上げた市民運動があるとも聞いていない。農民の側からは、前回の本欄で伝えたように「令和の百姓一揆」が東京など全国各地で行われたが、農協陣営は動いていない。「世の中、のどかだねえ」と言っているだけでいいのだろうか。(元瓜連町長)