【コラム・三橋俊雄】デザインの定義に「社会の全ての人々の基本的尊厳を認める状況を促進、育成せねばならない(フランス・ヘンドリックス、1983)」とあります。つまり、デザインとは、より多くの人々が人間らしい生活を送るために役に立つ専門領域でなければならないということです。
そこで今回は「ユニバーサルデザイン」についてお話します。ユニバーサルデザインとは「すべての人々のためのデザイン」を意味します。例えば、年齢や障害の有無にかかわらず、初めから、できるだけ多くの人々が利用できるように、モノや環境をデザインすることです。
公園の水飲み場や公衆電話の高さが、大人用と子どもや車椅子用の2通りになっていることがありますが、それはユニバーサルデザインです。また、駅のホームにエスカレーターが設置されたり、公園や博物館などの出入口が階段とスロープでできている場合、それもユニバーサルデザインの配慮と言っていいでしょう。
コラム2(2023年11月21日掲載)で紹介した、脳性小児まひ児T君のための足動式意思伝達装置のデザインもその一環です。また、京都では、さまざまな障害を持つ方のためのユニバーサルデザインを検討してきました。
動物園のユニバーサルデザイン
2015年度までに京都市動物園が大規模な改装を計画し、「動物園のユニバーサルデザインコンペ」が行われました。そこには「すべての人に優しい動物園」がうたわれていました。そこで、視覚障害者にとって満足できる動物園とは何かについて、全盲の学生のT氏とゼミ学生のY氏と私で考えることにしました。
まず、T氏が1人暮らしをしている実態を把握し、その後、実際に動物園に行って、T氏がほしい情報は何かを検討しました。その結果、彼が知りたい動物園での情報は「説明文的情報」ではなく、目の前にいる動物たちの〈動き〉〈息づかい・鳴き声・臭い〉〈大きさ・重さ〉〈その動物たちが暮らしている環境〉などでした。
すなわち、T氏が動物園を楽しむためには、視覚に代わる触覚・聴覚・臭覚などを通して、動物たちと対峙(たいじ)している「臨場感」をどのように味わうかということでした。
例えば、キリンの「息づかい・臭い・発声音・皮膚の触感・大きさ」など、猿の「素早い動き・ポーズ・群れの動向」など、ライオンやゴリラの「くせ・迫力感」など、私たちが動物園で無意識に感じている「感動」を、T氏にどのように伝えていけばいいのか、それこそ「ユニバーサルデザイン」がなすべき課題であると感じました。上のイラストは提案の一部です。
私たちがこのプロジェクトを通して、もう一つ気づいたことがあります。私たち晴眼者(せいがんしゃ)のほとんどが、動物園に行って動物たちを「見た(理解した)」つもりになっていて、実は、動物たちが私たちに発している「大切なメッセージ」を見落としているのではないか、私たちこそ「BLIND MAN(視覚障害者)」なのではないかということでした。(ソーシャルデザイナー)