金曜日, 12月 12, 2025
ホームつくば「救急隊に過失なかった」つくば市第三者委が調査報告 3歳男児 搬送されず重度の障害

「救急隊に過失なかった」つくば市第三者委が調査報告 3歳男児 搬送されず重度の障害

高熱を出したつくば市の3歳男児(当時)が2023年4月16日未明、救急車で病院に搬送されず、その後、急性脳症と診断され重い障害を負った事案で、市が設置した第三者委員会「市救急隊不搬送事案検証委員会」(委員長・関健太郎弁護士)が26日、検証結果をまとめ、「男児は緊急搬送の必要性がある状態になく、救急隊には搬送義務があったとは言えず、過失はなかった」などとする報告書を出した。

報告書によると、男児は1週間ほど前から体温が上がったり下がったりし、同年4月15日、医療機関を受診した。かぜと診断され、せき止め薬などを処方された。その日の夜中、男児の体調が悪化し、翌16日午前0時50分、家族は119番通報して救急車を呼び、40.8度の熱があり、けいれんのような震えが止まらないこと、ぐったりして受け答えができない状態であることなどを伝えた。

午前1時ごろ救急車が到着。父親が男児を抱きかかえ両親は玄関の外で待っていた。屋根下に移動し、救命士はそこで男児を観察、男児は発熱しているが、意識、呼吸、脈拍、顔色などに異常はなく、震えはけいれんではなく発熱や寒さからくるものであるから救急搬送の必要はないと判断した。救命士は、家族が自家用車で向かうのであれば病院を選定することを家族に伝え、病院に電話連絡し、現場を引き上げた。

家族は自家用車で病院に向かい、午前1時30分ごろ到着した。到着後、男児は呼び掛けにも反応がなく、けいれん発作などが繰り返し起こるけいれん重積などと判断され入院。20日に急性脳症と診断された。

男児の家族は不搬送とした救急隊の判断を問題視し、つくば市は24年3月、第三者による検証委員会を設置した。救急隊に過失があったか、救急隊の活動規程や隊員の教育・訓練に過失はなかったかなどついて1年間にわたり計7回、委員会を開き調査した。救急活動記録、各病院の診療記録のほか、救急隊員と男児の家族にそれぞれ聞き取りなどをした。搬送しなかったことと、男児が重度の障害を負ったことの因果関係については検証対象ではないとしている。

検証方法は、救急搬送について、県が定める救急搬送と医療機関の迅速な受け入れについての基準と、15歳以下の小児・新生児の救急搬送・受け入れの実施基準に基づいて、救急隊に過失があったかなどを検証した。

けいれんだったと認定できない

検証結果は、救急隊員と家族との間で男児の状態に対する供述が異なっているとしながら、男児の意識レベルについて、救命士は現場に到着した際、子供の泣き声を聞き、病院の診療記録にも救急車が到着したときに一度泣いたという記載があることなどから、救急車到着時点では男児に重度の意識障害はなく、ぐったりまたはうつろな状態ではなかったとした。男児に震えがあったことについて「(救急搬送の必要がある)けいれんであったとの認定はできなかった」とし、小児・新生児救急観察基準票に基づいても「救命士が観察した時点で救急搬送が必要とされる状態にあったとまでは認定ができない」と結論づけた。

一方で救命士は、脈拍数、体温、血圧、酸素飽和度の測定をしていなかったと指摘しながら「観察に不備がなかったわけではないが、一通りの観察はしており、不備のない観察をしたとしても救急搬送が必要とされる結果にはならなかった」とした。

検証結果について委員長の関弁護士は「コメントが難しい。議論が多岐にわたる事案で、冒頭に検証委員会として何をやるかを提示している。話をし出すといろいろなところまで波及してくる。救急業務は病院、医師、全体として成り立っている。そういう意味でもコメントがしずらい」と話した。

検証結果について五十嵐市長は「過失の認定には至らなかったが、当時の救急活動に問題がなかったとは思っていない。観察項目の省略があったと報告を受けた。結果に影響を与えなかったとはいえ、本来丁寧に行うことが必要だと思っている。消防は誰からも頼りにされる存在である必要があるので、今回の事案を教訓として今後適切な救急活動が行われるよう管理者として努めていきたい」と話した。

青木孝徳消防長は「過失はないものとされたが、当時の救急活動によって検証委員会を設置することになったこと、相手様にご負担を生じさせたこと、市民の皆様の信頼を損なう結果となったことに対しては反省している。今後は同じことを繰り返さないよう職員教育を徹底して、市民に信頼される消防行政を目指したい」と述べた。

家族「納得いかない」

一方、検証結果は同日、家族にも報告された。市消防本部によると「(家族として)納得いかない。ありえない」との意見が出されたという。(鈴木宏子)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

32 コメント

32 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

サンタにふんし ごみ拾い TX万博記念公園駅周辺で障害者ら

クリスマスを前に、サンタクロースにふんした知的障害者らが12日、つくばエクスプレス(TX)万博記念公園駅周辺でごみ拾いをした。 同駅近くに立地する障害者の就労支援施設「さくら学園」(NPO明豊会運営、飯島喜代志代表)に通所する障害者ら約25人で、障害者を知ってもらい地域とのつながりをつくろうと、7年前の2018年12月から毎月1回、同駅周辺でごみ拾いを続けている。 この日はクリスマスシーズンにちなんで、赤い上着とズボンを着用、赤い帽子をかぶり、白いひげを付けて駅周辺を歩きながら清掃。TX高架下の生け垣、駅前のバス停、空き地、マンションの生け垣などに落ちていたビニール袋、ティシュペーパー、たばこの空き箱、紙コップ、空き缶などを拾い集めた。 守谷市から通所する高田建太さん(20)は「順調にきれいになった」と話し、つくば市内から通所する山下靖紘さん(34)は「楽しい」などと話していた。12日は強風注意報が出され、つくば市は最大風速7メートルと強風だったため、通常の半分のコースの約500メートルを、20分ほどかけて歩いた。 さくら学園広報の鈴木芽未さんは「障害者が外に出ることは大事。どんな人が通っているか地域に知ってもらい、地域との接点になれば」と話していた。 同施設にはつくば市内のほか周辺市町村から約30人の知的障害者や精神障害者、身体障害者らが通っている。ゴムのバリ取りなど会社から受注を受けた作業のほか、不要のパソコンを回収し希少金属をリサイクルする作業(2024年1月24日付)、機織り機を使った手織り、オリジナルトートバッグの製作(22年3月26日付)など、独自にさまざまな作業に取り組んでいる。(鈴木宏子)

ソプラノ歌手招き 歌ってフレイル予防を つくばのコーラスサークル

健康を維持するためのコーラスサークル「マウントつくばエコー」(伊藤雄二代表)が今年5月に結成され、国内外で活躍するソプラノ歌手で二期会会員のひらやすかつこさんを都内から招き、ボイストレーニングとコーラスの講座が開催されている。 音楽を楽しむと同時に、大きな声を出すことによって、加齢で心身が老い衰える「フレイル」(虚弱状態)を予防し、健康を維持することを目的としている。歌唱のうまさを競うものでなく、それぞれが楽しく歌うというのがモットーだ。 講座は月1回、同市並木の並木交流センターで催され、ひらやすさんが毎回、呼吸、発声、歌唱方法などを指導する。呼吸は、持参したストローを用い、ゆっくり深く息を吸った後、ストローを使って、吸った時間の倍の時間を掛けてゆっくり吐き出す。声帯と周辺筋肉の「声筋」を鍛えるほか、肺機能を向上させ、副交感神経を優位にすることでストレスの軽減や不安の緩和などの効果があるという。「声筋を鍛えることは認知症予防につながる。日常生活に音楽を取り入れるために、とても良い練習になる」とひらやすさんは言う。 現在会員は15人で、ほとんど欠席者は出ず、毎回毎回を楽しみに通っているという。練習では「埴生(はにゅう)の宿」「ふるさと」「オー・ソレ・ミオ」などをレパートリーとしている。 代表の伊藤さんが、都内でひらやすさんの講座を受講し、「つくばでもぜひやってみたい」と相談したのがきっかけ。伊藤さんが会員を募集しスタートした。 ひらやすさんは、武蔵野音楽大学を卒業後、ドイツ、イタリア、オーストリアなどに3度国費留学。ニューヨークのカーネギーホールで催された日米親善ソリスト公演にも出演した。現在は声楽家にとどまらず、臨床心理療法士、心理カウンセラーと幅広く活躍している。音楽と健康をテーマに、都内で開かれている「ときめきサロン」などの講師を務めているほか、老人ホームなどでも音楽教室を開いている。 ひらやすさんは「つくばは2018年頃から訪れているが、自然が豊かでとても気に入っている街。毎月来るのが楽しみになっている。楽しく歌えば健康になる。どんな形でもどんなジャンルでも歌うことは良いことで、歌うことが日常になってくれれば」と語る。「年を重ねると声帯が固くなり、高い声などが出にくくなる。しかしトレーニングによって改善することが出来る」と言い、「サークルでも、コーラスだけでなく、一人一人に歌ってもらうことで効果を高める指導をしている」と話す。 代表の伊藤さんは、大手半導体メーカー、インテルを退職後「テニスやゴルフ、カードゲームなど趣味に生きていた」が、ひらやすさんとの出会いによって新しい世界が広がったという。「会員のみんなが熱心で、歌うことによって健康になってもらえれば」「現在も会員募集中で、20人ぐらいに増やしたい。将来は旅行などしながら移動コンサートも出来たら」と語る。(榎田智司) ◆マウントつくばエコーのひらやすかつこさんの講座は、毎月第2木曜日午前9時30分~午後1時、つくば市並木4-2-1、並木交流センター音楽室で開催。会費は月2000円。問い合わせは伊藤さん(電話080-1241-5733、メールyuji3itoh@gmail.com)へ。

人類救済と日常生活の話《映画探偵団》95

【コラム・冠木新市】フランシス・フォード・コッポラ監督は、ベトナム戦争を描いた大作映画『地獄の黙示録』(1979)の撮影で数々のトラブルに悩まされていたとき、フェデリコ・フェリーニ監督の映画『8 1/2』(1963)を見て心を慰めていたという。世界映画史の上位に常にランクされる同イタリア映画は、日本では東京オリンピック(1964)の翌年、アートシアター系の劇場で公開され、難解な作品として話題になった。 この映画は、車の中にガスが充満してきて、必死に脱出を試みる映画監督グイド(マルチェロ・マストロヤンニ)の悪夢シーンから始まる。そして、ラストシーンはグイドが準備中だった「原子力戦争で生き残った人々が地球脱出をはかる」内容の映画をクランクインするシーンだ。 つまり、このドラマは「人類救済」をテーマにした映画作りに取り組む、一監督の苦労を描いたもので、彼の作品創造の秘密を解明している。しかし、創造の秘密といっても、それは技術上のことではなく、作品を完成させる上での自信、インスピレーションなど、グイドの内面に焦点が当てられている。 温泉療養所やホテルで暮らすグイドの内面に湧いてくるのは、亡くなった両親、自分の少年時代の追憶、そして妻、浮気相手、理想の女性クラウディアに関する夢など、準備中の映画とは関係ないことばかりだ。「人類救済」という大テーマに取り組みながらも、日常生活では妻や浮気相手の女性、過去の出来事との間で混乱するグイドの姿が浮き彫りにされる。 ユニークなのはその表現方法だ。前半では追憶や夢のシーンと現実シーンとの移行が明瞭だが、後半になるとそれらの境目が曖昧になる。グイドと妻のいる現実の場面に妄想の浮気相手が出てきて、妻と仲良く踊りだす。リアルな人物描写と相まって、グイドの混とんたる内面を表現する絶妙な効果をあげている。今では理解できる表現だが、1965年当時、日本の観客は混乱の極致だった。 人生は祭りだ 共に生きよう ラストシーンの直前で、日常生活と仕事に疲れ切ったグイドが、記者会見の席上でピストル自殺をはかる幻想にとらわれる。そして制作を中止、セットが破壊されてゆくその瞬間、突然、グイドはインスピレーションを受ける。「混乱を整理するのではなく、あるがままを受け入れること…それは愛だ。人生は祭りだ。共に生きよう!」と。 ラストシーンは映画史に残る名場面だ。宇宙船発射場セットの幕を引くと、階段からどっと白い服を着た人たちが降りてくる。現実の映画関係者や夢や追憶に登場した人物である。人々は輪になって踊りだす。現実と夢、内面と外面世界が融合した瞬間だ。その輪にグイドはもめていた妻と加わる。人類救済と日常生活は個人の内面で深く結びついている。 今年諸事情で開催を延期したイベントを、来年の開催に向けて準備中である。誰でも経験すると思うが、種々のトラブルはつきものである。ふと『8 1/2』を見たくなったのは、そのためか。だが、悩みながらも混乱する世界の救済と結び付いていると信じて取り組んでいる。サイコドン ハ トコヤンサノセ。(脚本家) <お知らせ> 物語観光:つくつくつくばの七不思議セミナー(参加費無料)・日時:12月13日(土)午前10時半~・場所:カピオ中会議室・内容:映画『サイコドン』上映、出演者の話、唄、踊りなど

無人のダンプが坂下り出し 軽トラの女性けが つくば市発注の水道工事

筑波山中腹 11日午前11時30分ごろ、つくば市臼井、筑波山中腹の坂道で、同市発注の水道管布設替え工事中、道路脇に停車していた無人の2トンダンプが動き出し、約30メートル下った先の住宅敷地内に停車していた軽トラックに衝突、軽トラックははずみで住宅の玄関に衝突し、乗っていた女性が打撲など軽いけがを負った。 市水道工務課によると、現場は筑波山神社に続く生活道路で、工事を受注した市内の業者が老朽化した水道管を取り替える工事中、前方を坂の下に向けて停車していたダンプが前に動き出した。ダンプは事故時、交換した水道管を埋め戻すための砂を積んでいた。サイドブレーキはかけていたが、車止めは設置していなかったという。 けがを負った女性は、出掛けようと軽トラックの運転席に乗ったところ、左後ろの荷台付近をダンプに衝突された。住宅の玄関は、庇(ひさし)を支える木製の庇柱2本が折れるなどした。衝突の影響で軽トラックのドアが開かなくなり、消防署が女性を救出、女性は救急車で病院に運ばれた。 女性は現在、自宅療養中で、事故原因は調査中としている。 同市の五十嵐立青市長は「事故によりけがをされた方に深くお詫びします」とするコメントを発表し、「再びこのような事故を起こさぬよう、受注者に、現場の安全対策の再確認や現場作業員に対する安全対策の再教育を指示」し、さらに「現在工事を受注している全事業者に対しても、安全対策に関する指導を徹底します」としている。