水曜日, 4月 2, 2025
ホームコラム愛しのベジタブル《短いおはなし》37

愛しのベジタブル《短いおはなし》37

【ノベル・伊東葎花】

僕はひどいあがり症だ。
人前で話すだけで顔はまっ青、足はガクガク。
そんな僕が、留学先の高校の演劇大会で主役に抜てきされてしまった。

「先生、無理デス。ボク留学生ダシ、日本語モ下手デス」

「大丈夫だよ。セリフ少ないから」

「緊張シテ、上手ク出来マセン」

「客を全員野菜だと思えばいい。ほら、かぼちゃとか白菜とか」
「無理デス。ダッテ人間ダモン」

「じゃあ、人が野菜に見えるおまじない、教えてやろうか」
「オマジナイ?」

「先生の後に続いて唱えてみなさい」

先生は高らかに声を張り上げて「ラブリー・ベジタブル」と呪文を唱えた。
僕も真似して、同じように唱えた。

「ラブリー・ベジタブル、ラブリー・ベジタブル」

すると、目の前の先生が突然ピーマンになった。
小道具を運ぶ女子はダイコン、演出の男子はゴボウ。

「スゴイデス、先生」

「よし、じゃあ頑張れ」

おかげで舞台は大成功だった。何しろ客席はカボチャやサツマイモやニンジンたち。
少しもあがらない。僕たちのクラスは最優秀賞をもらった。
ところが、舞台を降りてもずっと、呪文が解けない。
ホームステイ先のおばさんはキュウリ、おじさんはジャガイモ。

「今日の舞台よかったわよ。おばさん感激しちゃった」

「なかなか堂々とした演技だったぞ」

「アリガトウ」と言いながら、キュウリとジャガイモに言われても…と思った。

翌日も魔法は解けない。
先生は相変わらずピーマンのまま。ピーマンの授業は中身がない。
となりの席の山田君は玉ネギ。見ているだけで涙が出る。
いちばん人気のエリカちゃんはトマト。
学級委員は頭でっかちのカリフラワー。
みんな野菜だから楽に話せる。ぜんぜん緊張しない。

だけど困ったことに、野菜が食べられなくなってしまった。
ホームステイ先の家族はベジタリアンだから、食卓は野菜料理ばかり。

「ジャガイモをすりつぶしたスープよ」

と言われると、おじさんの顔を見てしまう。
キュウリのサラダはおばさんが身を削っているようで切なくなる。
耐えられなくなって、故郷のママに連絡した。

「ママ、このままじゃ僕、栄養失調になっちゃうよ」

「まあ可哀想。だから留学なんて反対だったのよ。すぐに帰ってきなさい」

そんなわけで僕は、志半ばで故郷に帰ることになった。

「故郷に帰っても、私たちの顔を忘れないでね」

クラスメートは言うけれど、人間だったころの顔はもはや憶えていない。
それでも別れは悲しいもので、涙をこらえて宇宙船に乗り込んだ。
故郷の『ナスビ星雲第3惑星ナガナス星』に向けて全速力だ。
ああ、地球人との交流って、難しいけど楽しかった。

地球の教室では…

「ナスビ君、帰っちゃったね」

「演劇大会のゾンビ役は最高だったな。メイクしなくても顔が紫だから」

「茄子(なす)を見るたびにナスビ君を思い出すわ」

ホームステイ先では…

「ナスビくんが帰ったから、心置きなくナスが食べられるわね」

「うん。やっと焼き茄子(なす)が食える」

(作家)

【お詫び】26日午前6時に掲載した短編小説「恐竜の星」を差し替えました。「恐竜の星」は2024年7月24日付で掲載したものでした。関係者にお詫びの上、差し替えます。

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