火曜日, 10月 7, 2025
ホームコラム冤罪をなくそうと訴える袴田ひで子さん《邑から日本を見る》178

冤罪をなくそうと訴える袴田ひで子さん《邑から日本を見る》178

【コラム・先﨑千尋】1966年に静岡県で起きた一家4人殺人事件。その犯人とされ、死刑判決を受けた袴田巌さんは、昨年9月の静岡地裁でのやり直し裁判で無罪を言い渡された。私は2月4日に東京で開かれた農協協会主催の新春特別講演会で、巌さんの姉のひで子さんの話を聞くことができた。この席で、ひで子さんは冤罪(えんざい)を晴らすための苦難の道を振り返り、冤罪をなくすためにこれからも努力していくと語った。

ひで子さんが講演

今回は「農業協同組合新聞」の講演記録を参考にしながら、ひで子さんの講演の要旨をお伝えしたい。

弟が58年闘ってやっと再審開始になり、無罪をいただいた。拘置所に入っていた弟は88歳、私は92歳。弟が勤めていたみそ工場で殺人事件が起きたのは私が33歳の時だった。警察は弟を逮捕し、早く犯人を挙げなければと弟を自供に追い込んだ。「4人も殺した人が事件後普通に暮らせるわけがない。弟は事件とは関係ない」と思っていた。

母は無実を訴え、裁判所に通ったが、一審は死刑判決だった。気に病んだ母は68歳で亡くなり、半年後に父も亡くなった。身内が警察の厄介になると、兄弟でも親子でも、諦めたり見捨てたりすることがある。うちは6人兄弟だったが、喧嘩(けんか)ひとつしたことがないほど仲が良く、無実を信じてきた。再審決定が出る前の3年半は面会を拒否されていたが、私は小菅の東京拘置所に通い続けた。家族は見捨てないと伝えるためだった。

2014年3月に再審決定が出た。本人が歩いて出てきて、私と弁護士が待っていた部屋の長いすにポンと座り、「釈放された」と。私たちは本当に喜んで、何もかも吹っ飛んだ。釈放後、巌は精神科の病院に入院したが、本人は出たくて仕方がなかった。静岡県清水市で開かれた集会に出たのを機に私の家で暮らすようになった。最初は、一日中家の中を歩いていた。買い物に連れ出すと、ある日「一人で行く。お化けの世界に行くから」と言うので、「行ってきな」と送り出した。

巌には拘禁症の気がある。48年もあんなところに入れられて、「まともでいろ」と言う方が無理だと思う。元に戻せとは言わない。再審法を改正してほしい。巌だけが助かればいいんじゃない。冤罪被害者はたくさんいる。再審がなかなか通らないのは法が不備だからだ。再審法の改正へ代議士や弁護士が頑張ってくれている。応援してほしい。私もまだ元気なので、一生懸命闘っていく。

再審制度の見直しが必要

新聞報道では、確定した刑事裁判を最高裁がやり直すかを決める再審手続きをめぐり、審理の課題について議論を始めるようだ。また、鈴木馨祐法相も、再審制度の見直しについて法相の諮問機関である法制審議会に諮問すると表明している。超党派の国会議員連盟も今国会で議員立法による法改正を目指す方針。袴田さんのケースのような審理の長期化が背景にある。私は、袴田さんたちの願いが一日も早く実を結ぶことを期待する。(元瓜連町長)

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