建築研究所(つくば市立原)がつくばヘリポート(つくば市上境)で行っていた空飛ぶクルマ(AAM)の実験の模様が18日、報道陣に公開された。都市域の建築物、特にビル屋上を離着陸場(バーティポート)として利用する際、どんな環境整備が必要になるか、技術的課題を洗い出すのが目的の基礎的実験で、15日から3日間行われた。
実験は同研究所が産業技術総合研究所など3機関と共同で進める「都市・建築における空飛ぶクルマの活用」研究の一環。同ヘリポートに中国製の無人航空機「EH216-S」を駐機して、日本での型式認証取得を目指しているAirX(エアーエックス、東京都千代田区、手塚究社長)が協力した。昨年3月のテストフィールド開設以来初めての受託事業になる。
実験ではテストフィールドの一画に平屋のプレハブ小屋も設け、ヘリコプターと空飛ぶクルマがそれぞれ飛行した場合、またホバリング時における風、音、振動などの影響を調査した。
収集したデータの詳細はまとまっていないが、今回使用したヘリコプターの騒音レベル(約30メートル距離で計測)が約95デシベルなのに対し、空飛ぶクルマは約75デシベルとされる。ヘリコプターのレシプロエンジンに対し、空飛ぶクルマは電動モーターを用いるために優位性が出てくる。
AirX社の機体は8対16枚のプロペラを回し自重450キロの機体を垂直に持ち上げる。パイロットは搭乗せず、地上からのリモート操縦で、ホバリングも自在にこなす。18日の公開では、機体を一気に地上100メートルまで上昇させ、そのままホバリングさせる「国内初の飛行」(AirX社)も行ってみせた。
建築研究所の宮内博之上席研究員は「静音性は保たれるが、条件はそれだけじゃない。階下に住民が居住する環境で、屋上に着地した場合の心理的影響はどうかなど新たに浮かび上がる要素が色々出てきそうだ」とする。実験はあくまで建築側の課題の洗い出しが目的で、機体の開発や法整備には踏み込まないという。
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空飛ぶクルマは、電動化や自動化などの先端航空技術を装備し、垂直離着陸などの運航形態の実現によって、次世代の空の移動手段として期待されている。
国レベルでは2018年から「空の移動革命に向けた官民協議会」での検討が進められている。人・モノの移動のほか観光分野での活用などを見込み、2030年代に商用運航が普及するロードマップが描かれる。国土交通省は2023年、「バーティポート整備指針」を策定するなどの検討も行われている。
建築研究所では25年度から3カ年かけて実証実験の新たなステップに踏みだす。宮内上席研究員は「普及段階では複数、多数の空飛ぶクルマが発着を繰り返すようになって、屋上をエントランスとするような利用形態が想定できる。そうなると不動産価値にもドラスティックな転換が見込まれ、その社会的な受容性を見極めていく必要がある」としている。(相澤冬樹)