【コラム・田口哲郎】
前略
急性胃腸炎にかかり入院しています。幸い軽症だったので痛みもおさまり、現在は退院に向けて体が回復するよう療養しています。体は比較的元気ですので、この原稿を書いているわけです。
体調をよくするためにひたすらに休むというのは、大学院生の私が暇だなあと思うほどにゆっくりできます。せっかくですから、この入院体験を夏目漱石や内田百閒風に書いてみようと思います。もちろん文豪ほどの腕はないのであくまで「風」です。
急性胃腸炎で入院
夜半に急に腹が痛み出し、苦しくてならず、水も受けつけなくなった。最近、茨城県は不要不急の救急車出動にはお金を取るらしいので、救急相談ダイヤルにかけたら、救急車を呼ぶほどでないが、脱水が起こっているからなるべく早く病院に行ったほうがよいと言われた。
体もだるくなってきたので、家人に送ってもらい、近くの病院に夜間急患ということで診てもらった。血液検査、尿検査、レントゲン、CTスキャンをした結果、急性胃腸炎、いわゆるおなかの風邪だと言われた。すぐにリンゲル液を点滴してくれたが、症状がみるみる良くなった。
これで帰れるだろうと思ったら、やさしそうな女医が「脱水ですし、余分な栄養分もおしっこに出てしまっているので心配です」と言う。そして、「入院しますか、それとも帰りますか」と聞くのだった。
今時の医療は、よっぽど危機迫る状況ではない限り患者に選択をさせるので、「まあ、大したことはないし、帰ってもいいですよ」と言われると期待していた私は、困ってしまった。このまま帰宅してもよさそうだが、また振り返しても家人に迷惑がかかる。しかし、入院とは大げさな気もするし。医者と看護師がじっと私を見下ろしている。私は入院することにした。
文明の利器に感動
そうと決まると、病室の話である。個室料金は4人部屋の4倍だという。それはそうだろうと、4人部屋を選んだ。夜中にすでに3人が入っている部屋に入れられ、私はとりあえずベッドに寝かされた。リンゲルで緩和したとはいえ、具合は良くなかったのだろう、すぐに眠りに落ちてしまった。
しかし、未明である。仕切りはあるものの、4人部屋の隣のベッドの病人のイビキで目が覚めた。中年男性だろう。地鳴りのような響き方から大柄と思われる。私はこの世のごう音と夢の世界の甘美な眠気に引き裂かれながらも、なんとか騒音から逃れたのだった。
看護師に検温に来たと呼びかけられて目が覚めた。気づくと胸とお腹には吸盤が貼られ、心拍数と心電図、酸素濃度を測るセントラルモニタなる携帯機器がつけられていた。これで私のバイタルは24時間監視されているのだ。
私は文明の利器に驚き感動した。こんなに安心なことがあるだろうか…。私は初めての入院に新鮮味を感じ、子供のように喜んでさえいた。しかし、入院生活は始まったばかりだったのである。ごきげんよう。
草々
(散歩好きの文明批評家)