火曜日, 5月 13, 2025
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コタツ生活《短いおはなし》35

【ノベル・伊東葎花】

朝、いつものようにタカシ君を迎えに行った。

「タカシ君、学校行こう」

家の中から声がした。

「ごめん、ユウ君。コタツから出られないんだ」

「えっ、何言ってるの? 早くおいでよ」

タカシ君のお母さんが出てきて言った。

「ごめんね、ユウ君。コタツがタカシを放してくれないのよ。今日はお休みさせるから、ユウ君ひとりで行ってね」

???

コタツがタカシ君を放さないってどういうこと?
寒くてコタツから出られないだけだろう。

学校が終わってから、ぼくはまたタカシ君の家に行った。

「タカシ君、プリント持ってきたよ」

「ユウ君、玄関開いてるから入って」

「じゃあ、おじゃましま~す」

上がって部屋に行くと、タカシ君はコタツに寝そべってマンガを読んでいた。

「なんだ。やっぱりさぼりじゃないか」

「違うよ。コタツがぼくを放さないんだ。コタツ布団をめくってごらん」

言われた通りめくってみると、コタツの足がタカシ君の足に絡まっている。

「ねっ、コタツから出られない理由がわかったでしょ」

「大変じゃないか。トイレとかどうするの?」

「それがさ、平気なんだよね。ぼくの身体がコタツの一部になったみたいでさ、感覚がないんだ。ほら、コタツはトイレ行かないだろう」

「つらくないの?」

「ぜんぜん。だってこうしてマンガは読めるし、ご飯も食べられるよ。それに何よりあったかいからね」

ぼくは、プリントを置いて帰った。
タカシ君は、コタツの中で手を振った。

翌日もタカシ君は学校を休んだ。
学校帰りにタカシ君の家に行くと、タカシ君のお母さんが一緒にコタツに入っていた。
寝そべってみかんを食べている。

「もしかして、おばさんも?」

「そうなのよ。うっかりコタツで寝ちゃったら、もう出られなくなっちゃったの」
「ごはんとか、どうするんですか」

「デリバリーがあるから大丈夫。スマホがあれば何でも買えるわ。あら、注文したピザが来たみたい。ユウ君、悪いけど受け取ってくれる。そうだ。お父さんに電話して、明日のパンを買ってきてもらいましょ」

コタツの一部になっても、お腹は空くんだな~と思いながら、玄関でピザを受け取った。

家に帰って、ママに尋ねた。

「ねえママ、うちにはコタツはないの?」

「ないわよ。コタツは人間を堕落させるからね。コタツから出られなくなったら困るでしょ。私はこの温風ヒーターがあれば充分よ。ほら、温かいわよ」

ママが温風ヒーターにへばりついた。

しばらくすると、温風ヒーターから手が伸びて、ママの足に絡みついた。

「あらいやだ。温風ヒーターの前から離れられなくなっちゃった。ユウちゃん、テレビのリモコンとスマホとお茶とミカン、手の届くところに置いてちょうだい」

なんてこった。
それもこれも、寒さのせいだ。
ああ、早く春が来ないかな。

(作家)

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