【コラム・小泉裕司】「祈るばかりだったので、開催が決まってうれしい!」。昨年の「大曲の花火」は、開催日8月31日(土)の3日前、28日(水)午前9時に開催決定を発表した。台風10号が九州地方をゆっくりと北上、長時間にわたって大荒れ、秋雨前線が北日本に延び、東北や北海道など遠隔地にも記録的な大雨をもたらす予報の中で、台風のゆるい動きを見極めて決断をした。
冒頭の喜びの声は、地元紙「秋田魁新報」に掲載された日本花火鑑賞士会会長 間瀬基夫さんのコメント。大会当日、開始時には、準備した雨具に着替える瞬間もあったが、以後は、雨が上がり、湿気で煙が滞留し、見にくい作品もありつつも、競技は無事終了した。
大曲は「明」で土浦は「暗」?
昨年の土浦大会前日の11月1日(金)の予報によると、東日本では当日の2日から3日にかけて、台風21号から変わった温帯低気圧や前線の影響で24時間降水量は多いところで120ミリの大雨となる所がある見込みとのこと。
さらに雲底高度も低いとの予報が出され、安全な煙火消費および競技花火としての観覧環境が確保できないとの判断により中止となったことは、本コラム34「土浦の花火に思う」(11月17日〉のとおり。11月に台風が日本列島に接近するという近来まれな事態は、やはり異常気象と言わざるを得ないのだろう。
終了直後のゲリラ雷雨:神明花火
昨年8月7日(木)に開催した「神明の花火」(山梨県)は、打ち上げ数2万発、来場者数18万人、人気花火師が担当する花火大会に全国からファンが集う大会。当日の天気予報は、熱帯低気圧の影響で大気のバランスが不安定となり、夕方から夜になると激しいゲリラ雷雨が確実に発生すると予想。
そんな中、19時30分から打ち上げを開始、予定どおり21時に終了。直後、帰りを急ぐ観客をゲリラ雷雨が襲った。状況は、本コラム30「夏本番」(8月18日)をご覧いただきたい。
帰りの電車の立ち往生や公共施設への緊急一時避難など、全国ニュースで取り上げられるほど希少な経験をしたが、見事な花火を鑑賞した余韻は、今も脳裏に焼き付いていて、危機一髪な花火大会の開催を決断した主催者は、大いに安堵したことだろう。
打上げ20分前に中止決定:足立花火
昨年7月20日(土)午後7時20分打上予定、荒川河川敷を会場とする「足立の花火」は、雷雨のため午後7時に中止を発表、会場にはすでに約40万人が来場していた。開催を決定した当日朝の天気予報は、太平洋側に雨雲や雷雲、地上の気温が高い影響で大気の状態が不安定となり、足立区周辺を含む関東南部では急に雨が降るとあり、主催者は開催するかどうか逡巡したという。
決定後も、南にそれていく可能性もあるとの専門機関の情報を確認していたので、ただひたすら心の中で念じていたが、かなわなかったとのこと。
雷雨の中を帰路に着いた観客にとって、花火を見る事ができなかったのだから「暗」ということかも知れないが、足立の場合は、その後の観客ファーストのリスク対応があまりにも素晴らしかった。稲光を背景にケーブルテレビで中止の理由を説明する近藤やよい足立区長の頼もしい姿に感服した次第。
順延を期待する声もあったというが、順延しない理由を「約700人の警備員が従事するが、近年は警備業界の人員不足のため、警備員が減り、安全の確保が難しい状況」と説明。有料観覧席の全額払い戻しにかかる費用についても区の補正予算で対応したが、特に話題となることなく予算化が図られたと聞く。
ちなみに今年は、熱中症などの健康上のリスクや天候(風雨、雷、台風、気温など)による中止リスクがあることから、5月31日(土)に開催日程を変更した。
「順延・中止決定は2日前に」
昨年12月の土浦市議会定例会では、飲食店や小売店の損害が最小限になるよう、順延や中止の発表を、現在の「前日9時」から「2日前の早期」に変更できないかとの質問があった。
天気予報の精度が格段に高まっていることをその根拠にあげていたが、足立区の場合、ウェザーニュース(2024/7/20)では、夕立のような激しい土砂降りを予報しながらも、次の一文を付記した。「ひとつひとつの雨雲は小さいため、ちょうど上空を通過するかどうかは運次第」。
いずれにしても、主催者は、異常気象下での可否判断に苦悩しながらも、安全で魅力的な花火大会が開催できるよう、これからも最善の努力をされるに違いない。私は、その決定を、敬意を持って受け入れるのみ。
成人の日午前7時、複数個所で響いた5段雷花火が初花火。「ドーン パンパンパンパンパン」(花火鑑賞士、元土浦市副市長)