【コラム・若田部哲】千葉県千葉市と茨城県水戸市を南北に結ぶ国道51号線。鉾田市内に入ると、メロンのビニールハウスや様々な畑が続き、夜間にはひっそりと静まります。そんな街道沿いの冬の闇の中に突如として現れるのが、今では鉾田市の名物となった「昭和観光のイルミネーション」。
この一大風物詩を始めたのは、株式会社昭和観光会長の根本昭さんです。きっかけは、2014年に鉾田市主催の「花いっぱいコンクール」の取り組みとして、社屋の周りを花で飾ったことでした。
花が地域に笑顔をもたらす様子を見た根本さんは「夜になるとひっそり暗くなってしまうこの道を、あたたかく彩れないか」と考え始めます。そうして2016年より、数本の明かりを社屋入口にともしたのが、イルミネーションの始まりでした。
始めてみると楽しみにしてくれる人が現れ、その期待に応えようと、年ごとにスケールは拡大。今では電球数15万個にも及ぶほどになったそうです。毎年、社員総出で1カ月以上かけて準備をなさるとのことで、取材に伺った日も3~4人の方が和やかに作業をされていました。
街に光の輪をつないでいきたい
活動を続けていく中で一番の転機は、2020年に端を発した新型コロナウイルスの感染拡大です。様々な産業が深刻な打撃を受ける中、最も影響の大きかったものの一つが観光業でした。バス需要が大幅に減少する中、多額の費用を要するこのイベントを継続するかどうか、根本さんは悩みます。
葛藤しつつも、イルミネーションが見たい、という多くの人たちの声に背中を押され、コロナ禍の中、明かりをともします。すると、遠出が自粛される中、市内の方々がぬくもりを求めて集まりました。
感激して涙を流す人、感謝のメッセージを残す人…。大勢の人の思いに触れ、根本さんはイルミネーションの継続を決意。その後、年を追うごとにその規模は拡大し、今では遠く長野の方からも問い合わせがあるそうです。
一大観光スポットとなったイルミネーションですが、本業である観光業の業績アップにつなげようとは思っていない、と根本さん。今後、周辺道路の拡幅が予定されている中、「これからも、少しでも街に光の輪をつないでいきたい」と穏やかに語ります。一個人の思いから始まった取り組みは、今年も寒い冬の夜、多くの人の心にあたたかな灯をともします。(土浦市職員)
<注>本コラムは「周長」日本一の湖、霞ヶ浦と筑波山周辺の様々な魅力を伝えるものです。
2024年度のイルミネーション:12月1日~2025年2月28日(日没~午後10時ごろ)

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