【コラム・奥井登美子】私たち薬剤師は、薬を調剤したあと、その情報をお薬手帳に記入しなければならない。
「すみません、お薬手帳を出していただけますか、記入しますので…」
「お薬手帳あるはず、だけれど、どこへ入れたかしら…」
かばんの中に、いろいろな書類や印刷物が入っていて、大事な書類、コンビニでもらった領収書、どうでもいい書類の分類ができていない。探すのに時間がかかるご老人が多い。
保険証、診察券、お薬手帳、個人の医療にとって大事な書類。かばんの中に入れておいても、急に身体が痛くなったり、転んだり、交通事故にあったりしたとき、すぐに取り出せるように、個性的なケースに入れておくべきだと、私は考えている。
メーカーで作っている診察券などを入れるビニールケース、紙のケース、革のケース、いろいろあるが、皮革のケースは高価で立派。しかも重量があって、重たくて、お年寄りには向かない。布のケースを探してみたけれど、売っていない。
着物の端布を貼ってみた
仕方がないので、ビニールケースに布を貼り付けてみることにした。どんな布にしようかなあ。亡くなった姑(しゅうとめ)の着物の端布。姑は生きているとき、3人の子育て、薬局経営、自然保護運動で超忙しい私の健康を心配してくれていた。
「天国にいるおかあさん、私の健康を守ってくださいね…」
姑に祈りながら、端切れの布をお薬手帳ケースに貼り付けてみた。和服の布の色といい模様といい、その個性はかばんの中の他の資料と全然違うので、すぐ取り出せる。
石川県で大地震。関東地方も大震災から100年。関東地方で、いつ大震災が起こってもおかしくない。災害時に備えて、緊急避難のときも、心臓の薬、血圧の薬、胃の薬など、毎日飲まなければならない薬の情報は、命を守るために必要不可欠だ。
私たちはいま、緊急避難時に備えて、自分の医療情報をいつでも取り出せるようにしたいと思う。(随筆家、薬剤師)