【コラム・斉藤裕之】さて話は前回の続き。2階の部屋を片付けていたら、何とも不思議なことに数枚の中古LPレコードが出てきた。誰のものかわからない。値札は全て100円。それほど詳しくない私には、ただ1枚、エルトン・ジョンのものだけがわかった。
10月吉日、この部屋に住むことになった新住人がやって来た。事情はいずれ話すとして、私のパートナーなどではない。しかるにこの新同居人、正確には同居人達の部屋には何とレコードプレイヤーがあるではないか。片づけが一段落したところで、早速この謎のレコードを聴いてみようということになった。
ジャンルはバラバラ。カントリーありロックあり。さて次はどんな曲が始まるやら。共通して言えるのは、大方80年代のものだということだ。それなりのグループであるらしい。こういうとき、ネットは有り難い。検索すると全部ちゃんと出てくる。数枚は結構いい値段がついていることもわかった。しかし、誰がいつ? なぞのレコード。
ちょっと残念だったのは、片方のスピーカーから音が出ないこと。スピーカーのせいではなさそうだし、どこか断線しているというのも考えにくい。すると新同居人の1人が「ハリかも?」と。レコード針のせいでステレオにならないことがあるというのだ。
翌日、近くの中古ハード機器専門店でレコード針を買ってきた新同居人が針を交換。すると、両方のスピーカーから音が! ついでに買ってきたという数枚のレコードも、ターンテーブルへ。秋の夜は立体感のあるアナログな音に包まれた。
心躍るクリスマスソング
およそ40年前。「レコードはなくなってCDというものになるらし~で」と、当時映像関係の専門学校に通っていた弟が放った言葉。そんな馬鹿な!と思ったが、それから間もなくしてレコードは姿を消した。
今やCDも見かけなくなり、ネット配信という時代。最近履歴書というものを書いたことがないのだが、恐らく「趣味、特技」なんていう項目はないんだろうな。とりあえず、差し障りない「読書」や「レコード鑑賞」なんていうのが定番だったような。私は読書もしないし、レコードなんて買うお金もなかったので、どちらも書いたことはないけど。
当時のレコードは子供の小遣いじゃ買えない値段だったけれど、今はプレミアがついているものを除けば中古は安い。今こそ「趣味、レコード鑑賞」か。
翌日、新同居人のひとりが年末に向けてクリスマスソングのレコードが欲しいというので、近くの中古レコード店へ。何とか1枚を見つけて帰宅。夜のとばりとともに針を落とす。60を過ぎて初めて聞くバイナルレコードのクリスマスソングに、不覚にも心躍る私であった。後日、レコードは長女が学生時代に殺風景な部屋の飾りにとジャケ買いしたものとわかった。(画家)