サティの詩を新訳で披露 10日、つくば 夢工房
つくばを中心に活動する「フランス音楽研究会」(阿部理香代表)が10日、つくば市豊里の杜、ギャラリー夢工房でサロンコンサートを開く。今回は「エリック・サティ氏の気晴らし」と題し、20世紀初頭のフランスで活躍した前衛音楽家サティと、その同時代人であるラヴェル、ストラヴィンスキーの作品も取り上げる。
コンサートの白眉は、サティのピアノ小曲集「スポーツと気晴らし」の全曲演奏。ゴルフ、ブランコ、ヨット、魚釣りなど、当時のブルジョワジーの風俗を題材にした全21曲の詩曲集だ。サティの詩は風刺やウィットに富み、今回のコンサートではそれを新訳で披露する。
フランス音楽研究会は2003年結成。近代フランスの作曲家を中心に、文化的背景と音楽表現の関わりなどを異分野融合的に研究し、その成果を演奏と詩の朗読、文化的レクチャーを融合したコンサートとして発表している。
代表の阿部さんはメゾソプラノ歌手で「カルメン」「フィガロの結婚」などのオペラに出演。文学、美術、風俗などの異分野を融合した探求を行い、総合芸術の視点でフランス音楽を研究している。
「スポーツと気晴らし」は、高級ファッション誌を手掛けていたパリの出版社が企画し、サティの手描き楽譜と風俗画家シャロル・マルタンの版画をコラボレーションした豪華本として1923年に発表された。当初は1914年の出版予定だったが第一次世界大戦の勃発により中断、約10年の間に流行や価値観が大きく変化したため、マルタンが新たに絵を描き直した。
「新旧の版を比較すると、女性がどんどん自由になっていく過程が分かり面白い。例えば第17曲『そり』は、旧版では男性に押してもらっており、新版では女性が一人で滑っている。第8曲『海水浴』は自由奔放に海に飛び込み、泳ぐ女性たちの姿が生き生きと描かれている」と阿部さん。
サティの音楽については「親しみやすく常に新しい。単純な音で時代を超え、耳にすればみんなが知っている。環境音楽のはしりとも言える人。権威に背を向け、自分の個性を大事に生きた」と阿部さんは評する。
「サティが生きた19世紀末から20世紀初頭にかけては、みんなが新しいものを探していた時代。美術、音楽、ファッションなどが同時に進化し、その様子は音楽だけを見ていたのでは捉えきれない」
当時は女性の力が強まり、アカデミーという既存の権威をひっくり返すほどの力も持っていた。有産階級の女性が主宰したサロンでは、アカデミーのようなヒエラルキーはなく、芸術家たちは自由に新しい自分の芸術を追究することができたという。
サティもまたアカデミーに背を向けた異端児で、モンマルトルのキャバレーのしがないピアノ弾きをしていたが、「ベルエポックの女王」と呼ばれたミシア・セールの抜擢により脚光を浴びることになった。ミシアはロシアバレエ団の創始者ディアギレフのパトロンでもあり、ディアギレフはバレエ作品「パラード」の音楽にサティを起用、そこにはコクトーやピカソ、ストラヴィンスキーら時代の寵児も多くかかわっていた。
「ストラヴィンスキーやラヴェルはサティより一回りほど年下だが、サティよりはるかに売れっ子で、それでいて互いに認め合う仲だった。サティの音楽は10年早かったとも言える」と阿部さん。そうした点もコンサートで確かめることができる。(池田充雄)
◆フランス音楽研究会のコンサート「エリック・サティ氏の気晴らし」は11月10日(日)、つくば市豊里の杜2-2-5、夢工房で開催。開場は午後2時、開演は2時30分。演目はラヴェル:マ・メール・ロワより、ストラヴィンスキー:バレエ音楽「プルチネッラ」イタリア組曲より、サティ:ジムノペディ、1916年の3つの歌、スポーツと気晴らし、あんたが欲しい。料金は2000円、「茶-tea」付き。申し込み・問い合わせは電話029-852-7363(阿部さん)へ。