【コラム・松永悠】10月末に初めて北海道に行ってきました。うちには犬も猫もいるため、家を空けることがなかなか難しく、北海道に行くなんて夢のまた夢でした。
今回はご縁があって、札幌や函館といった有名な観光地ではなく、稚内まで飛んだ後、さらに浜頓別というオホーツク海に面した小さな町に行くので、この旅はどんなものになるか予想もつきませんでした。
結論を言うと、最高の思い出が出来ました。観光シーズンが終わったこと、そして観光地ではない場所として、ディープな北海道の一面を見ることができました。
滞在中、毎日車で移動して、オホーツク海側も日本海側も見て回ることができて、いろいろ感無量です。同じ海でも、東京付近の海と全然雰囲気が違うんですね。オホーツク海も日本海も荒く、そして力強く、とにかく圧倒されっぱなしでした。海沿いに道路があって、高速ではないのに、交通量が少ないから信号なしでスイスイ行けます。
もちろん、海だけじゃないです。広大な平原と山林が途切れることなく延々と広がっています。実はここで意外な収穫がありました。初めて行ったのにも関わらず、この景色を見て私はとても懐かしく感じたのです。
「何もない」を楽しむ時間
この懐かしさはいったいどこから?としばらく観察したら、理由が分かりました。この風景、実は北京郊外の山とそっくり。目の前に広がっているのは子供の時から慣れ親しんだ景色そのものです。緯度的には、北海道が北京より北の方ですが、植物の種類も広大な感じも紅葉の色も驚くほど似ています。
今回の行き先は北海道の最北端に位置するため、行く先々で「最北端の〜」と出合います。土地が広いのに人口が少なく、出合ったエゾジカの数が人間より多いほどです。こんな場所ですから、夜になると文字通り「真っ暗」になります。ナイトサファイアに出かけたら、ここでも感動が待っていました。
これほどきれいな川が目の前に広がっていると気づいたとき、涙が出そうになりました。記憶の中で空一面に広がる星を見たのは、30年ほど前に北京郊外の山に行ったときでした。まだ大学生だった私が、山頂のゲルに泊まって、友人たちとふかふかの草の上で寝転がって、天の川に見とれていた記憶がよみがえりました。
とにかく、今回の旅は「何もない」を楽しむ時間でした。人も人工的な建造物もほとんどない代わりに、豊かな自然、たくさんの野生動物、パワーいっぱいの海を目いっぱい感じて、心を空っぽにすることができました。都会に住む人間にとっては、これほど贅沢(ぜいたく)なことはありません。(医療通訳)