【コラム・小泉裕司】11月2日(土)、イオンモール土浦(土浦市上高津)は、第93回土浦全国花火競技大会開催のため、全館臨時休業する。2009年、同大会実行委員会と締結した協定に基づくもの。かき入れ時の土曜日に、今では当たり前のように花火大会が開催されるが、度重なる協議を経て、全国随一の花火大会への思いを共有することで、画期的な取り組みを実現した先人の功績に感謝したい。
今回は、このイオンモール専門店街1階通路に設置されている花火展示の紹介を兼ね、花火鑑賞士による土浦の花火講座WEB版をお届けする。
モニュメントは6尺玉
煙火(花火)業界は、古くから尺貫法が使われているが、時代に合わせ、1寸=3.03センチ=1号、10寸=1尺=30.3センチ=10号と表示している。したがって、撮影スポットとして作成した大玉(上の写真左)の直径は180センチなので、6尺=60号となる。
このモニュメントの中心部に上下の半球を組み合わせた継ぎ目が見える。実際に花火玉を製作するときも、2つの半球の玉皮に夜空で輝く「星」とその星を飛ばす「割火薬」を込め、2つを合わせる「ぱっくり法」と呼ばれる技法が用いられる。
「昇り曲」と呼ばれる上部の4つの小玉は、上昇中に開く花火玉で、約45センチ=1尺5寸=15号換算。この昇り曲は、上昇中にも楽しんでもらおうという花火師のサービス精神から生まれたと言われている。
ちなみに、実際に打ち上げている花火では、片貝まつり(新潟県)の4尺玉(直径120センチ)が世界一の大きさとされる。
打ち上げ筒
打ち上げ筒は、花火玉の直径や打ち上げ方に応じて、筒径や長さ、組み方が異なる。材質は、紙、鉄、FRP樹脂などもあるが、安全性、耐久性や重量などの点でステンレスが主流のよう。花火玉とのクリアランス(隙間)や筒底の安定確保にも手間をかける。
上の写真の左奥から右に、10号、7号が各1本、5号が6本。中段左は4号が4本、右は2号15本。前列は、スターマインの下層部分を彩る1.5号筒が扇形に結合されている。
打ち上げ現場では、容易に転倒しない結合体として、杭や土嚢(のう)などで全体を安定させる。40メートル×3メートルの区画内に設置完了後、警察や消防の保安検査を受け、打ち上げ準備完了となる。
花火玉の大きさ
スターマイン、創造花火、10号玉の3部門で使用する花火玉を大きさ順に陳列(陳列棚写真)。左端の3つは、スターマインの部で使用する2.5号(直径約7.5センチ)から4号玉(直径約12センチ)。合計400発以下、ただし、4号玉は200発以内、星を直接打ち出す筒(内径が5センチ以下)は、100本以下を付加可能としており、合計500本の筒を使用することができる。
その右は、創造花火の部の5号玉(直径15センチ)。競技では7発を打ち上げる。独創的なアイデアや新しい技術が求められる部門。その右は、大会提供ワイドスターマイン「土浦花火づくし」の主役となる8号玉(直径約24センチ)。上昇時に小さな花を開く「昇り小花」が付いている。
右端は、左右に花火を散らしながら上昇する「分砲」を付けた10号玉(直径約30センチ)。
花火玉の内部構造
陳列棚の中段、下段には、代表的な花火玉の内部構造の模型を展示。花火玉は、構造上、上空で粉々に爆発する「割物(わりもの)」、張り合わせたところから割れて中に仕込まれた花火玉を放出する「ポカ物」、その中間の「半割物」(小割物とも言う)の3種類に分類される。
割物の典型は、同心円状に真円を描く菊型花火で、いわゆる芯入り割物。上段左から右に進化順に陳列。左端は、中心の2つの「芯」と外側の親星(おやぼし)を加えた3重構造の「八重芯」と呼ばれる花火。1928年に紅屋青木煙火店(長野県)の青木儀作さんが完成させたが、当時、これ以上の芯を増やすことは不可能と思われたことから、八重芯と名付けられた。
その後、花火師の研究と技術革新によって、現在では、全部で6つの円を描く「五重芯」にまで進化を遂げた。約3千の「星」を込める時間は、まる2日を要するとのこと。
下段左端は、ニコニコマークや動物を描く「型物(かたもの)」と呼ばれる割物花火の応用形。その右は、「千輪」と呼ばれ、上空で開いたときに一瞬遅れて、中の小玉が小さな柳状に開く半割物花火。最後の「蜂」は、上空でポカっと開いたあと、光の筋が不規則に広がる「ポカ物花火」。
型物や千輪、蜂は、スターマインの主要なファクターであり、色や飛び方など独自の工夫をこらし、作品に使用する。
早速、イオンモール土浦に出かけ、展示キャプションで知識を深めれば、花火を2倍楽しめること間違いなし。大会3日前、モール北側駐車場に出現する競技用の10号筒46本とモール建物とのアンマッチな景観も一見の価値あり。
本日はこの辺で「打ち留めー」。「ヒュッ シュッ ドーン!」。(花火鑑賞士、元土浦市副市長)