土曜日, 5月 17, 2025
ホームコラム「ひきこもり」その2《看取り医者は見た!》29

「ひきこもり」その2《看取り医者は見た!》29

【コラム・平野国美】今回は前回(10月4日掲載)の続きです。「ひきこもり」は、いつ、どこから現れたのか? 他国にも存在するのか? 単なる個人の病的な資質なのか?

家族主義がある韓国、イタリア、日本では「ひきこもり」の形態が多く、個人主義の米国、英国では子供が家から独立する傾向があるため、「ホームレス」の形態が多いと言います。つまり、この現象は個人の資質だけでなく、文化や生活習慣の影響を受けていると思われます。

「病理」という医学用語があります。病気の原因や成り立ちを研究する学問で、主に患者さんの病変部を採取した組織を顕微鏡で観察して診断をつける役割を果たしています。「ひきこもり」という現象は、顕微鏡の世界で理解できるものではありません。社会的病理と考えられるのではないでしょうか?

精神科医、斎藤環先生(筑波大学医学医療系社会精神保健学教授)は「ひきこもり」を「病」ではなく「状態」として捉え、社会的な要因が大きく影響していると指摘しています。

斎藤先生によると、日本のひきこもりは、家族主義だけでなく、社会の期待が強い文化背景が影響しており、個人が社会や家族の役に立たないと感じることがその一因と述べています。そして、社会からの孤立が問題の本質と強調されています。

そこは天国か? 地獄か?

日本の「ひきこもり」と欧米の「ホームレス」は似て非なるものなのか? それとも、孤立という同じものなのか? そこに文化的背景があるのか? 私の小学校の同級生に、この範疇(はんちゅう)に入る者の記憶がありません。中学校時代は1学年400名ほどでしたが、1人存在していたと思います。

自分が現在診察している高齢の方に、昔、こういう人はいましたか?と尋ねると、ほとんどの方が存在しなかったと答えます。文化背景の一つかも知れませんが、昭和、戦前の日本家屋を考えると、引きこもる場所もなかったと思います。6畳間に雑魚寝して生活する時代であったと思います。

実際、患者さんたちは、昔のことをこう話してくれます。「家も狭いし、家でゴロゴロしていると、親に外で遊んでこいと叱られた」と。戦後のある時代から、子供部屋というものが出現しました。当初はふすまや障子で仕切られた部屋であったと思います。

私も受験期に、そのような部屋をあてがわれました。そして、平成に入り、子供部屋がドアを持った構造、そして鍵が掛かり、テレビが1台。ある時から、そこにパソコンやゲーム機器が置かれるようになったと思います。20年前、2階の息子と母親が携帯電話で話す姿を見て奇妙に思えたことがあります。

そこは天国か? 地獄なのか? 家屋構造の変化も、「ひきこもり」を誘発したのではないでしょうか?(訪問診療医師)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

1コメント

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

1 Comment
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

名称が決定 筑波大野球・ソフトボール室内練習場

9月1日開所予定 筑波大学(つくば市天王台、永田恭介学長)と関彰商事(本社筑西市・つくば市、関正樹社長)が同大学内に整備を進めている野球・ソフトボール室内練習場について(24年10月18日付)、名称が「Invictus athlete Performance Center」(インヴィクタス・アスリート・パフォーマンス・センター)に決定した。 インヴィクタスはラテン語で無敵や逆境への抵抗を意味し、自らの力で運命を切り開くという意味が込められているという。 同施設はコーチング、バイオメカニクス、スポーツアナリティクスを融合したトレーニング・研究拠点で、今年9月1日開所予定。 平日昼間は大学の授業や部活動で使用され、夜間や週末は関彰商事が一般向けにスクールや動作分析プログラムを提供しタイムシェア方式で運用する。関彰商事が整備し、開所後は筑波大学に所有権が移転される。 名称について同大と同社は「スポーツを通じて自分自身の未来を切り拓く力を育んでほしいという思いから決定した」とし、「今後も教育、研究、地域連携を柱とした取り組みを推進し、スポーツを通じた社会貢献を継続したい」としている。

つくば市消防職員を懲戒処分 停職5カ月 酒気帯び運転の車に同乗 

つくば市は16日、市消防本部の20代男性消防職員を同日付けで停職5カ月の懲戒処分にしたと発表した。消防職員は、非番の日だった今年2月9日未明、水戸市内で、酒気を帯びた友人が運転する車に同乗して検挙された。運転者が酒気を帯びていることを知りながら同乗したなど、地方公務員にふさわしくない非行などがあったためとされる。停職5カ月は、酒気帯び運転の場合とほぼ同様の処分という。 市消防本部によると、消防職員は同日、友人と飲食し、ビールなどを飲んだ。友人が運転する車に同乗し、警察に車を止められ検挙されたという。検挙された当日、本人から上司に報告があった。5月14日に市職員分限懲戒審査委員会が開かれ、処分が決定した。消防本部の調べに対し本人は、酒気帯び運転と知りながら同乗したことを認めているという。 青木孝徳市消防長は「市民の皆様に多大なるご迷惑をお掛けし心から深くお詫びします。今後の再発防止に万全を期すと共に、市民の不信を招くような行為を厳に慎むよう、さらなる綱紀の保持を徹底します」などとするコメントを発表した。

つくばの県立高4校が魅力を紹介 18日、市民団体が「高校進学を考える集い」

学校選択テーマ 人口増加が続くつくば市で県立高校が不足している問題を県などに訴えてきた市民団体「つくば市の小中学生の高校進学を考える会」(片岡英明代表)が18日、同市役所コミュニティ棟で「第6回つくばの高校進学を考える市民の集い」を開催する。今回は学校選択をテーマに、市内の県立高校4校の校長が各校の魅力をそれぞれ紹介するほか、片岡代表が今春の入試問題をもとに県立中学や県立高校入試にどう構えたらいいかなどを話す。 これまでの市民の集いとは趣向を変える。これまで年1回開催してきた集いは、県立高校の募集定員不足問題を考える場とし、参加者から出された意見などをもとに県教育庁に要望活動をしてきた。県議や市などと連携し牛久栄進高の学級増やつくばサイエンス高の普通科新設などを少しずつ実現してきた。一方生徒や保護者からは、募集定員不足の問題にとどまらず、「実際の高校の話を聞きたい」「中学受験をどう考えればいいのか」「通学の費用が大変」など幅広い声が出ているなどから、今回は学校選択を考える。 集いは2部構成で、第1部は高校進学説明会を開催する。筑波高、つくばサイエンス高、竹園高、茎崎高の市内4校の校長が一堂に会し、各校の魅力をぞれぞれ説明するほか、牛久栄進高が資料を配布する。 第2部は、伝統校が中高一貫校になり中学受験の波が押し寄せていることから、入試への構えのほか、伝統校の中高一貫校化によって学校選択に波紋の広がり、特に土浦一高の定数削減で受験生に何が起きているのかなどについて、元高校教員でもある片岡代表が話す。 片岡代表は「県立高校が不足しているところに土浦一高の定員削減という状況が起こり、(同校の)定員削減1年目に土浦二高と竹園高に、2年目に牛久栄進高に受験生の波が向かった。3年目の来年の入試でどこに向かうのが心配」だとし「つくばサイエンス高と筑波高校の魅力アップは地域の発展にとっても重要」とする。さらに「県は2019年の県立高校改革プランでつくばエリアの10校を26年までに2学級増やすと発表したが、実際は県立中が増えただけ。県平均の県立高校収容率で試算するとつくばエリアには30年までに12学級増が必要になり、いろいろな人の意見を出してもらって県と対話したい」と話し参加を呼び掛ける。 ◆つくば市の小中学生の高校進学を考える会は18日(日)午前10~12時、つくば市研究学園1-1-1、つくば市役所コミュニティ棟1階会議室1・2で開催。資料代300円。詳しくは電話029-852-4118(新日本婦人の会つくば支部内)へ。

20年前と20年後の舞踏会《映画探偵団》88

【コラム・冠木新市】中学1年生の時、シナリオに関する本で「舞踏会の手帖」なるフランス映画の名作があることを知った。夫を亡くした貴婦人が、昔踊った男性たちの名前の書かれた手帖を見つけ、男たちを訪ねる旅に出るお話である。監督は名匠ジュリアン・デュヴィヴィエ。だが私が作品を見たのは、50年以上の歳月が過ぎてからである。確かテレビ放映で見たと思うのだが、記憶は定かでない。でも内容ははっきり覚えていて想像を超える名画であった。 製作は1937年。日本での公開は1938(昭和13)年。昭和恐慌で農村は疲弊し、満洲への移民政策が本格化し、淡谷のり子の「別れのブルース」「雨のブルース」に兵士たちが熱狂していた時代だ。この年、「舞踏会の手帖」はキネマ旬報の外国映画の第1位に輝く(チャップリンの「モダン・タイムス」が第4位)。しかし、後に軍部から退廃的とされ、上映禁止となる。 作品は、クリスティ一ヌ(マリ一・ベル)が、16歳の時に踊った8人の男性を20年ぶりに訪ねるという、オムニバス構成の物語である。 1人目のジョルジュは、失恋で自殺し写真のみの登場。2人目のピエールは、元弁護士で今は犯罪に手を染めるキャバレーの支配人。3人目のアランは、元作曲家で今では子どもたちに合唱を教える神父。4人目のエリックは、元詩人で今では山岳ガイド。5人目のフランソワは、国の政治家を目指す野心家だったが、今は田舎の町長で不良の養子に悩まされている。6人目のティエリ一は、堕胎で稼ぐ闇医師。7人目のファビアンは、昔と変わらぬ美容師。そして、8人目のジェラールはつい最近亡くなり、クリスティ一ヌは父親そっくりな息子と出会い養子にする。 なぜか、最後の8人目のエピソードがあっさりと終わる。私の見た版は2時間11分。オリジナル版は2時間24分。13分短いので、そこがもっと描かれていたのではなかろうか。だがそれでも、衝撃的な仕上がりであった。 二つの時代が同時に押し寄せる 普通のオムニバスだと7つのエピソードのどこかに乱れがあるものだが、それがなく密度が濃く7本の映画を見ている感じである。クリスティ一ヌと男たちの20年前の出来事の記憶と20年後の現実の物語。この二つの時代の話が同時に押し寄せて来て、観客は人の変貌という時の残酷さを体験することとなる。これは若い世代には重すぎる内容かもしれない。だから、50年過ぎて見たのが正解だったと思う。 ある婦人たちの話では、昔の男性に訪ねて来られるのは女性にとっては迷惑だと一致しているようだ。とすると、映画のクリスティ一ヌは男性の思いを表現しており、8人の男性とは、実は女性たちなのかもしれない。女性の物語に見せかけた男性の物語ではないのか。 クリスティ一ヌは、昔踊った舞踏会場を訪ねた時、狭苦しく野暮(やぼ)ったく見え、20年前に感じた華やかで光輝く舞踏会とは、16歳の時に見た幻想の現実であると気づく場面は切ない。サイコドン ハ トコヤンサノセ。(脚本家)